死の予感

私は『予断を持たず、常識を疑う』と肝に銘じても、知識の檻を抜けて考えられない自分の見識の狭さを呪う。


魔術に拠って召喚できる狩人は一体が限界だ。

しかしビリースタインは何かしらの手段、恐らく神の加護を以って、複数体の狩人の召喚を可能にしている。

森の中から4体の狩人が、ヨタヨタと飛行してビリースタインの脇で額突く。


榎本の犠牲が無駄になる前に狩人たちが出現したのは、ある意味で慈悲深い。

どの道、榎本は死ぬ。

しかし私や藤原も死ぬのだから、少なくとも犠牲という任務から彼女は解放されたのだ。


----


圧倒的な優位を得たビリースタインだが、先程の豪胆な振る舞いを抑え、大笑いを寛容な微笑に変えた。


「人は誰しも死ぬ、しかし儂は死なない、不死の魔術により永劫に生きる、チャールズは永き生を紡ぎ続けながら甘き死を望む、儂は違う」

チャールズが、総裁が、死を望む?

何の話をしているのだ?


「確かに外側の世界に関して人知は無力で、知り得ることは的外れなことばかりだ」

ビリースタインの声色は、今までの彼からは想像できない程に甘く優しい。


「儂はそれでいいと考えている、儂にとって知識とは使えるか使えないかだ、理解が誤っていても役立つなら間違ったままでいい、真理が知りたいのではない力が欲しいのだ」そう語るとビリーは、突き出した両手を握りしめて、何かを掴み取るような仕草をした。


ビリースタインは私たちを見渡した後、ゆっくりと諭すように切り出した。

「さて居場所を教えてもらうか、適合者は今何処に居る?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る