おじいちゃんのキャビネットケーキ 1

 一気に冷え込んできた、とある土曜日の昼過ぎ。

 リビングでゲーム実況を見ていると、おじいちゃんが言ってきた。

真人まさと、今からおやつを作るけど、食べるか?」

「何作るの?」

「うーん、そうやなぁ」

 僕が尋ねると、おじいちゃんは冷蔵庫を開けた。

 しばらく見つめていると、おじいちゃんは色々取り出してきた。

 卵と、牛乳と、何故かみかんの缶詰。あと一枚だけ残った食パンにも手を伸ばした。

 トーストでも作るのかな?

 僕はスマホの画面から顔を上げて、じーっと見つめた。

 するとおじいちゃんが気付いて、柔らかく微笑んだ。

「一緒に作るか? 真人」

「えっ⁉」

 思わず声を上げてしまう。

 おじいちゃんと、お菓子作り……?

 おじいちゃんは元々、外国でパティシエをしていたとお父さんから聞いた事がある。

 だから家族や友達の誕生日にすごく豪華なケーキを作ってくれる。

 そのせいか、お菓子作りはすごく厳しくて難しい印象が僕の中に根付いていた。

「で、出来るかな……?」

 僕が恐る恐る尋ねると、おじいちゃんは告げた。

「大丈夫やて。目ん玉飛び出るくらい簡単やから」

「えっ?」

 ものすごく間抜けな声が出てしまった。

「か、簡単なの?」

「そうや」

「分量細かく図ったり、果物を綺麗に切って飾り付けたりしないの?」

 僕が言うと、おじいちゃんは可笑しそうに微笑んだ。

「何言うてるんやぁ。確かにプロやったらそうするやろうけど、庶民のお菓子作りなんて、だいたいでよろしいのよ。楽しく作ればみな、美味しいからなぁ」

「だ、だいたい?」

「そう、楽しんだもん勝ちや」

 おじいちゃんは黒いエプロンを手に取って、腰ひもを締めながら言った。

 僕がぽかんとしていると、おじいちゃんは僕が家庭科の授業で作ったエプロンを手に取った。

「じゃあ、作ろうか」


 エプロンを着て手を洗うと、おじいちゃんとのお菓子作りが始まった。

 材料もさっき見た通り、専門的なものなんてひとつもない。

 いつでも家にあるようなものばかりだった。

 全く完成した絵が見えなくて、僕は首を傾げっぱなしだった。

「じゃあまずは卵を三個、解きほぐそうか。卵、割れるか?」

「さすがに出来るよ」

 僕は少し拗ねて唇を尖らせると、作業台に卵を打ち付けて、ボウルに割り入れる。

 するとおじいちゃんは感心したように言ってきた。

「せやなぁ、もう五年生やもんなぁ」

 泡立て器で混ぜ合わせて、牛乳と砂糖を加える。

 フレンチトーストかな?

 僕は予想を立ててみた。

 だけど背後から聞こえたのは、チンッと軽いトースターの音。

 思わず振り返ると、食パンがこんがりと焼きあがっていた。

 僕があんぐりとしていると、おじいちゃんは満足げに呟いた。

「よしよし、いい色やなぁ」

「えっ⁉ おじいちゃん、フレンチトーストじゃなかったの⁉」

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