シンプルなチョコレートプリン 3

 とろみがつくまでチョコレート液を氷水で冷やすと、容器に流し入れて冷蔵庫に入れた。

 完成までは二時間はかかるらしい。

 たった十分ほどでほぼ終わって、わたしはあ然としてしまった。

 だけどわたしだけじゃなくて、参加した他の子たちも物足りなさそうだった。

「先生、もう終わりなの?」

「そうや、簡単やろ?」

「えーっ! 今から二時間もヒマなのー⁉」

 多分、おじいちゃん先生のお菓子教室に来慣れている子なのだろう。

 わたしでも簡単すぎてびっくりしてしまったのだ。

 お菓子作りが得意な子にとっては、暇つぶしにもならないのかもしれない。

 するとおじいちゃん先生は参加した女の子たちに提案してきた。

「持って帰っておうちで冷やすのもええと思うんやけど、せっかく集まったんや。マシュマロココアでも飲みながら楽しくお話するのもよろしいんやないか?」

 マシュマロココア。

 参加している女の子たちは全員、目を輝かせた。

「やったー! あたし、ココア大好き!」

「みんなで女子会しよう!」

「うち、焼きマシュマロ食べたい!」

 楽しそうに盛り上がった女の子たちに、おじいちゃん先生も嬉しそうだった。

 わたしもこの賑やかな雰囲気が嬉しくて、笑顔を弾けさせた。

 プリンが固まるまで、わたしたちはマシュマロココアを飲みながら語り合った。

 廊下に一歩踏み出した瞬間、別世界だと勘違いするくらい。


 バレンタインデーの前日。

 お母さんが買い物に行っている間、わたしは一人でチョコレートプリンを作っていた。

 おじいちゃん先生からもらったレシピのメモを何度も確認する。

 一人でキッチンに立った事がないから、おっかなびっくりになってしまう。

 沸騰させないように木べらでチョコレート液を混ぜ終えて、氷水でゆっくり冷やす。

 やっぱり、ものすごく簡単だ。

 しかもお菓子教室から持ち帰ったチョコレートプリンは、お父さんも気に入ってくれた。

 シンプルな作り方なのに、すごく美味しい。

 初めて触れたお菓子作りの奥深さが、たまらなく楽しかった。

 百円ショップで買った小さい瓶にチョコレート液を注ぐ。

 友チョコの分と、お母さんとお父さんの分だ。

「びっくりするかな~」

 友達や、お母さん、お父さんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 思わず笑みがこぼれてしまう。

 瓶の蓋を閉めて冷蔵庫に入れたら、二時間ほど冷やし固める。

 多分、お母さんが帰ってくるのも二時間後ぐらいだろう。

 わたしがエプロンを脱ぐと、ちょうどお湯が沸騰する音がした。

 お母さんが帰ってくるまで、お茶でも飲んで待っていよう。

 マグカップにお湯を注いで、紅茶のティーパックを沈める。

 アールグレイのいい香りが漂ってきて、さらに気持ちが和らぐ。

 角砂糖を溶かしたら、牛乳をたっぷり加える。

 わたしはマグカップを持って、ダイニングテーブルに腰かけた。

 ミルクティーに軽く息を吹きかけて一口、飲む。

 ほんのりとした柔らかい甘さが口いっぱいに広がって、一気にリラックス出来た。

「早く帰って来ないかな~」

 足をぶらぶらさせて、もう一口ミルクティーを口に含む。

 大好きな人たちの弾けるような笑顔を思い浮かべながら。

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