高校生の私はモモタロウ

ちーーー

第1話 未知との遭遇は突然に

今日はなんというか、ついてない。

「百瀬、、転校初日から遅刻だなんてやるな。自己紹介ついでに遅刻の理由も聞かせてくれ。」

「…空から宇宙船が降ってきて、中から小さな動物が出てきて、それを追いかけてやってきた悪い奴らからその子たちを守ってたら遅刻しちゃいました。」

どっと笑いに包まれる教室。

本当しょっぱな遅刻なんて最悪。でも、転校初日の掴みとしてはばっちりなのが唯一の救いかな……。


天の川銀河にある地球に似た青く豊かな惑星、ハルモニカ。地球に似た青色に土星のような環を持った星。しかし今、この美しい星は炎に包まれていた。ハルモニカに封印されていた悪の種族「オルグランザ」が千年の封印から目覚めたのだ。その魔の手は瞬く間に星中の国を破壊していき、そしてハルモニカの中心地ソプラティアも陥落は必須であった。

「ここまでくれば奴らも振り切れるな。」

「キビト、あとすこしで救護隊と合流やで!」

「ソプラティア騎士団までここまでやられちゃうなんて…。」

ソプラティア騎士団のキビトは3匹の妖精とともに本拠地であるハルモニカ城近くの乗機駐屯地まで逃げてきた。

「いや、救護隊のところまで行く必要は、ない。」キビトは妖精のうちの1匹、キトリーに告げる。

「どうして!もうお城は目の前なのよ?!」

「もはやハルモニカは奴らの手に落ちたも同然だ。悲しいけどね。それに、僕に与えられた使命は君たちを惑星アリアースに送ることだ。」

そういうとキビトはポケットからあるものを取り出した。

「これはタロスプレンダー。きっと君たちに希望を、オルグランザに対抗できる力へ導いてくれる。キトリー、持っていてくれ。」

それを見ていたケインはいう。

「そんな凄いものからキビトが使えばいいじゃないか!」

ルエザも「その通りや。」と頷く。しかしキビトは首を横に振る。

「僕は選ばれなかった。でも、君たちはタロスプレンダーに選ばれた。そしてこの力を真に使える者のところまで行くんだ。今はもうそれしか方法がない。もちろん時間も同様にだ。」

すると建物が大きく揺れた。近くまでオルグランザの軍勢が攻めていているようだ。

「頼んだよ、キトリー、ケイン、ルエザ。」

そういうとキビトは外にいるオルグランザのもとへ駆けだした。呼び止めるまもなくその後ろ姿は戦火に包まれ見えなくなった。

「やるしかないよ。ケイン、ルエザ。」

キトリーの一言で3匹は決意を固め惑星アリアース行きの宇宙船に乗り込み、起動するとあっという間に宇宙へワープした。離れていく故郷。キトリーは赤に染まっていく故郷を宇宙船の窓から見えなくなるまでずっと見ていた…。

なんて壮大で悲しい夢だろう。カーテンの隙間から差し込む光で百瀬果穂は目を覚ました。何気なく目に入った時計は8時30分を示していた。

「やばい!!!寝坊したーーーー!!!!」

今日は4月2日。高校2年生の百瀬果穂はこの春から両親の都合で明かりが丘に引っ越して学校法人私立セリエランド高校へ転校したのだ。今日は大切な転校初日である。

「なんで鳴ってくれないのよ!」鳴ったが即座に止めた目覚まし時計に文句を言いながら大急ぎで制服に着替え、「どうして起こしにこなかったのぉ!」と愛犬のドギーを撫でてから髪の毛を整え、「ちゃんと起こしにいったわよ〜。」と母に茶化されながら朝食のサンドイッチをくわえた。

「喉につまらせないでね、あと道に迷わないように、それに自己紹介で噛まないようにね。」

「わっ、わかってるよ!大丈夫だから!どーんといってきまーーすーーー!」

サンドイッチはそのままに大急ぎで自転車に跨り海辺の高校めがけ丘を下っていく。朝日が海面に反射し煌めいてすがすがしい。始業は9時。今は8時40分。自転車で15分なのでこのままいけばギリギリ間に合う。10分で支度したから目やについてたらどうしよう。そんな事を考える程度には余裕は残されていた。下り坂を下り終え明かりが丘で一番広い公園に差し掛かった時、ドーンという大きな音とともにブランコがあった場所に大玉転がしの玉ほどの何かが落ちてきた。あまりの勢いに自転車ごと転けたうえに腰を抜かしてしまう果穂。

「な、な、なにが起きたの…?」

その球体から出てきたのは赤い犬と、黄色い猿と、青い鳥。でもどこかで見覚えがある様な、ない様な。そんな事を考えているとそのうちの鳥がこちらに寄ってきて

「そこのあなた。そう驚いて腰を抜かしてるあなた。ここは惑星アリアースであってる?」と問いかけてきた。何言ってるんだこの鳥…インコにしては流暢すぎるし、惑星アリアースとか言ってるし…。

「この星は地球って言うんだけど…。」もうさっぱりだ。頭がついていけなさすぎて動物が喋っている事なんでどうでもいい。スマホを見ると時間はもう52分。学校はもう目前だが死ぬ気で急がないと初日から遅刻してしまう。果穂にとってはそっちの方が大問題だから。チキュウってアリアースよね?などと確認しあっているカラフルな動物たちを尻目に自転車を起こし漕ぎ始めたその時、急に辺りが暗くなったかと思えば果穂の進む道に巨大な何かと小さい何かが降り立った。

「見つけたぞ!ハルモニカの生き残り!!」「宇宙船で逃げたとみられるキトリー、ケイン、ルエザを確認。抹殺するでち。」

どうやらあの動物たちを狙っているらしい。それに彼らは宇宙船(?)の影になっていてあの2人の刺客に気づいていない。いつまでもあってるんじゃないか?いないんじゃないか?などと話している。絶望的に勘が鈍い。どうしよう…助けた方がいいのかな…でも、遅刻しちゃうし…。

そんな事を考えながらも体は答えを出していた。

「む!惑星アリアースの一般市民が奴らを拐った?!」「追うのでち!」

果穂は無我夢中で3匹を自転車のカゴに入れ、来た道を引き返していた。

「何をするの!一般市民!」「降ろせよー!お前まさかオルグランザかー!」「こんな乱暴な運転初めてやーー!」

「うるさいわね!ここはあなた達が目指していた星!そして今あなた達はそのオルグランザの追手に気づいてなかったから助けてあげてるの!」

どこかで見たことある訳だ。この3匹は夢に出てきた妖精。希望を見つけるためにここに来たんだ。一度家で保護し、適当に逃せば、きっとどこかの希望とやらに届いて助けてもらえるだろう。目指していたアリアースに着いたがオルグランザに追われていた事を知り3匹も素直に果穂の自転車カゴに収まっていた。坂を上り終え、丘の上の家に着くと驚いた顔で母親が出てきた。

「果穂学校どうしたの?もう9時なるわよ?」

「わかってる。でも途中で迷子の…こ、子犬と子猿と小鳥を見つけて、それでその、ほっとけなくて、飼い主探すから一旦うちで保護していいかな?」

すこし悩んだが母親は受け入れてくれた。先に家に戻った母を追うように果穂がすかさず3匹を抱え家に入ろうとしたその時だった。

「一般市民のくせに匿おうなんていい度胸でち。」「大人しく渡せば命は助けてやる。」

オルグランザの追手に見つかったのだ。

「渡すわけないでしょ?あなた達みたいな悪い奴に!」

「いい度胸でちね、一般市民。その度胸気に入ったでち。僕は宇宙虐賊オルグランザの煉獄六ヶ島の四ヶ島、サイ。そしてこっちのでかいのは僕が作った怪人ムキムキランザ。」

急な自己紹介に「あ、百瀬果穂です。」とかえした。すると今まで大人しく抱えられていたキトリー、ケント、ルエザが急に腕から抜け出た。

「カホ、ここまでありがとう。でもこれ以上一般市民を巻き込まないわ。」

「そうだぜ。ムキムキランザを連れてきたってことは、相当ガチだからな。」

「ホンマ感謝してんで。」

そう言うと3匹が光になりそれぞれが別々に飛んで逃げた。

「逃げる気でちか。ムキムキランザ!」「おっしゃーー!」

しかしそんな逃亡虚しくサイの命令で一瞬にして3匹ともムキムキランザにはたき落とされてしまった。

「キトリー!ケイン!ルエザ!」打ちのめされ地面に横たわる妖精たち。

「どうしてこんなひどいことが出来るの?!この子たちの大切なものを奪っておいて、さらに殺そうとするなんて!」

「なにを勘違いしているでちか?このオルグランザに意見するなんて!一般市民だからといって邪魔すれば容赦はしないでち!」

サイの一言で剛腕を振るうムキムキランザ。妖精を抱え上げ辛くもこれを避ける。

「ふふふ、大口叩いておいて手も足もでないでちな〜!」「邪魔した事を後悔しろ!」

「後悔?するわけないでしょ。ここでなにもしないで逃げる方がよっぽど後悔する!」

自分でもはじめての感情だった。誰かのために怒り、そして誰かを守りたいと思う気持ち。きっと惑星ハルモニカのことを夢で見たのは偶然なんかじゃない。だから出会って少ししか経っていない間柄だとしても、私はこの子たちを守りたい。そう強く果穂の心は叫んだ。

その時、その心に応えるようにキトリーの持っていたタロスプレンダーが燦然と輝いた。あまりの輝きに果穂もオルグランザの2人も目を覆う。

「こ、これは…?!」「とにかく眩しいが叩き潰してやる!」

ムキムキランザが眩く光るタロスプレンダーを果穂たちごと叩きのめそうと再びその拳を振り下ろすもその光は威力を持ってサイとムキムキランザを吹き飛ばしたのだった。

少しして視界が戻った果穂が見たのは自身の前に浮かぶスマートフォンの様なものと、叩き落とされぐったりとしていたはずの3匹の妖精と一面の真っ白な世界。

「キトリーに、ケイン、ルエザ、あなた達もう大丈夫なの?それに、ここは?あとこのスマホなに?」

「俺たちはタロウの光を浴びて元気100倍や!」

「ここは、…どこかわからないぜ!」

「そしてこれはタロスプレンダー。希望へ導いてくれるもの。そして希望とはまさにカホのこと!」

夢でキビトという青年が言っていた希望はアナタなんて言われても果穂にはこれっぽっちも実感なんてわかない。

「そう言われてもこれからどうしたらいいかわかんないよ?」

「じゃあタロスプレンダーに聞いてみましょ、ヘイタロー?」

キトリーがタロスプレンダーに話しかけるとピロンと音が鳴り、

『はい、なんでしょう?』と反応した。さながらスマートフォンのバーチャルアシスタントのように。実際大きさも見た目も使い勝手もスマホのようだ。

「あなたが選んだ希望、カホにあなた自身の使い方を教えてあげて。」

『はい、わかりました。』

果穂をおいてどんどん話が進んでいってしまうが、ここまできたら引き下がるわけにはいかない。1人決意を固めていると不意に果穂の胸のあたりに小さな光る結晶が現れた。

『それは総称をタロウジェムといって、今あなたの前に現れたのはブレイブジェムと言います。それとタロスプレンダーをてにとってください。』

果穂はキトリー達が見守る中タロスプレンダーの手筈通りに行動する。

『手に取れましたね。次にタロスプレンダー下部のリングに指をかけ、そのまま下に引き下ろしてください。』

ガシャッと下部が展開すると今まで特になにも表示されていなかった画面が切り替わり

『Let’s change! LLL Let’s change!』という文字と音声が繰り返し映され、響き渡る。

「え?なにこの歌。」『気にしないでください。次は引き出した部分のくぼみにジェムをセットし引き出した下部を閉じてください。』

なにかの待機音のノリと説明のテンションがうまく噛み合わないタロスプレンダーに困惑しつつも手にしたジェムをはめ込みタロスプレンダーを閉じる。すると画面と音声が切り替わり、

『Gem on! BBB Brave! MOMO!!』と先ほど同様音声と表示が変わり、音楽も鳴り出した。

『この音楽は変身待機音です。こちらがあるかないかで私の価値が変わってきます。』

「なんでそんな事を…。」『先ほど気になられているようでしたので。』

『最後にタロスプレンダー本体の上部のスイッチを押してください。』

親切なんだか違うんだか。半分呆れながらも果穂は誰かを守る気持ちを決意に変えてスイッチを押した。

「どーんといってみるしかない!」


一方光に吹き飛ばされたサイとムキムキランザは待っていた。

「あれ、いつまで光ってんすかね。」「ほんとでち。一体なにしてるんでちか。」

ムキムキランザのパワーを持ってしても跳ね飛ばされてしまうし、そもそも近づき過ぎると眩しくてみてられない光に一般市民と抹殺対象が包まれてからそこそこ経つ。

「もう我慢できん!フルパワーをぶつけてやる!!」痺れを切らしたムキムキランザは立ち上がり拳を振り回し始めるもサイがそれを止めた。

「なぜっすか?!」「わからないでち!でもなんだか出てくるまで待った方が…」

言いかけたとき光が四方へ散らばり中から何かが出てきた。そのシルエットはさっきの一般市民とは違うようだが…

「なにこれなにこれ!変身しちゃった!」と自撮りしながら出てきたやつと「いいなー!俺も変身したいぜー!」「タロスプレンダーって写真も撮れるんやなぁ。」

「そんなことより早くオルグランザをやっつけるのよ!」とさっきまでくたばっていた妖精どもが一緒になってはしゃいでいる。

「な、何者だお前!」ムキムキランザが叫ぶ。曲げのような特徴的な頭飾りに白い陣羽織のような肩と胸当て、左腰には刀、ベルト中央のバックルには先ほど輝いていたタロスプレンダー。そして特徴的な「桃」のエンブレム。桃色のスーツを纏ったそいつは答えた。

「非道な悪を討ち払い、希望の果実を守り抜く!実りの勇者、モモタロウ!!

……で、あってるんだよね?」

「かっこいいぞー!」「決まってたでー!」「最っ高よ!」

などと和気藹々とした雰囲気で楽しむ果穂たちと打って変わって、サイの表情は強張っていた。

「モモ…タロウ?タロウでちって!!?」「ど、どうされましたかサイ様。」

「あれはぼくたちを封印したタロウが纏っていた鎧!力!君はぼくが最近作ったから知らないでちょうけど、とにかく甘くみると痛い目にあうやつでち!」

その忠告を聞きムキムキランザも少しびびっている様子。しかし再度モモタロウの方へ目をやると「刀なんて初めて触ったんだけど、どうすればいいの?」「タロスプレンダーに聞いてみたら?」などとまだやっている。

「サイ様、奴はまだ戦い慣れしていない様子。まだ奴が戦えぬこの機に妖精ごと潰して仕舞えば憂いも晴れましょう。」

「きみ急に喋り方かっこよくなるでちね。それもそうでち!ムキムキランザ!モモタロウを粉々にしてしまいなちゃい!」

タロスプレンダーに使い方を聞いていたらムキムキランザが雄叫びをあげながら殴りかかってくる。拳が大きく見えるほどの迫力にちょっと呑気してたモモタロウたちは正直ビビった。ズドンッと大きな音と衝撃があたりに走る。怯えて顔の前にやった手は図らずもムキムキランザの剛拳を受け止めていた。

「うそでしょ?」「うそだろ?」片方は最大の力こめた、片方はなんの力もこめていない。それほどまでにあっさりと受け止め、受け止められたため2人は一瞬タロウの力を信じられずに目を合わせる。

『力を込めて押してみてください。』

タロスプレンダーの一言でモモタロウは拳を押し返した。

「なんだぁこのパワー!」3メートルはあろうかというムキムキランザの巨体がまるで風船のように飛び上がった。

『抜刀し、ジェムを刀へはめ込んでください。』指示通り刀の鍔に当たる部分のつまみを引っ張り、変身時のような要領でジェムをはめ込みむと淡いピンクの刀身が強く光だした。

「よ、よくわかんないけど、どーんといっけぇーーー!」空に放り出されたムキムキランザ目掛け刀を振るう。放たれた斬撃は空間をも引き裂く凄まじさでムキムキランザを捉えた。

「うわぁあああああ!」断末魔と共にムキムキランザは光となりなかから爆発四散した。その煙の中からダンベルが一つ落ちてきた。

「え?なんでダンベル??」「オルグランザの幹部である六ヶ島たちは誰かの大切なものにナンダランザを吸収させることでランザ怪人を作るのよ。」

「ぼ、ぼくのムキムキランザがーーーー!」

ムキムキランザがやられたことに思わず目が潤んでしまうサイ。そんなサイにモモタロウが言う。

「それで、あなたはどうするの?さっきの筋肉マンみたいにやられる?」

「お、覚えているでちーーー!!」と大慌てでサイは空の彼方へ逃げていった。それを見送るとモモタロウの変身もとけ元の果穂の姿に戻った。

「や、やっつけた…?」

「すごいすごーい!本当に希望の勇者って感じよー!」

喜ぶ妖精たち。あの強大な敵を返り討ちにし妖精たちを守った果穂も安堵感から自然と笑顔になっていた。

「ところでカホ、お前どこかに急いでいたんじゃないのか?」

そんな勝利の余韻も束の間ケインの一言に一瞬で現実に引き戻される。そうだ、そもそも朝寝坊して遅刻寸前だったんだった!!

「やばいやばい!!今何時?!えーっ!8時59分?!遅刻確定じゃん!でも急がなきゃーー!ねぇ、勇者の力って空とか飛べない??」

「飛べるかも知らんけどなぁ、勇者の力をそんな便利道具にみたいに使うたらバチ当たるで。」

「ひーん!こんなことならすんなり行けばよかったーー!」

急いで自転車に跨り、学校へ駆け出した果穂。しかしこれからが本当の戦いの始まりとは、まだ彼女は知る由もなかった。

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高校生の私はモモタロウ ちーーー @chi_7k

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