第8話 思いの嵐

リヴァイアサンの姿へ戻ったレヴィは、人々を救助すべく海の上をすべるように走っていた。


クレアには全てを話したわけではないが、先ほど昔話をしたためか、ソロモンと出会った時のことを思い出した。


――その昔、島周辺の魔力の嵐が少し弱まった頃、何が起きているのか調べるため中心地へと向かった。


島に着くと、釣りをしているスケルトンが、莫大ばくだいな魔力を発散はっさんしており、それを見た時に身体がふるえた。


偉大なる古竜エンシェントドラゴンである自分がふるえたのである。


スケルトンがまとっている濃密のうみつな魔力、おそらく島周辺の魔力の弱まりは、このスケルトンが常にき出てくる魔力を制御化に置きつつあることを示していた。


非常に恐ろしく、奴はここで仕留しとめなければならぬと本能で感じた。


その後、本気で戦ったものの、一方的に倒されてしまったが・・・。


レヴィと戦ったときのソロモンは、有り余る魔力を”魔力の嵐”という形で魔力をき散らしていたが、今では完全にソロモンの制御下に置かれ、魔力は外部にらさなくなっている。


更に釣りと称しながら、五百年以上も淡々たんたんと魔力の質を上げ続けているのは脅威きょうい以外の何もでもない。


レヴィは、ソロモンが今では気まぐれ一つで世界を壊せるほど、超越的ちょうえつてきな力を持っているだろうと考えている。


クレアが来たことにより、その力が動き出そうとしている。


だが、レヴィに名前を付けてくれたのも同じソロモンである。


レヴィが倒されたあとにソロモンが声を掛けてきた。


「俺はソロモンだ。この名を名乗るのは君が初めてたけどね・・・」


異常な力を持つ骨が名乗ってきた。


使役しえきされているスケルトンは、名前を名乗らないものだが・・・。


「それじゃ、喧嘩けんかしたから仲直りだ。友達になろう」


そう言って、倒れた古竜エンシェントドラゴンに回復魔法をかける。


「・・・」


「君の名前はなんだい?」


「リヴァイアサン。皆そう呼んどるのじゃ」


「それ名前なのかい。名前じゃないだろ。ラオブ族のエルフにラオブだって言ってるようなものだよ。そうか・・・名前はないのか・・・」


よくわからない例えをする、変わった奴と思った。


「では、俺が名前を付ける。俺の友達に名前がないのは不便ふべんだからな。そうだなぁ・・・」


少し思案をしたソロモンが告げる。


「名前はレヴィアタンがいい・・・。君の名前をレヴィアタンにしよう」


「レヴィアタン・・・」


「そう。レヴィアタンだから、愛称は・・・レヴィだな・・・。よろしくな、レヴィ」


初めての言われた名前に初めての愛称・・・うれしくなった。


リヴァイアサンはスケルトンにたずねる。


「レヴィは・・・たまにここへ来ていいかの?」


このスケルトンに興味がいた。


「もちろん遊びに来てくれ・・・。その恰好かっこうは・・・」


ソロモンが問いかける。


レヴィは、ソロモンと出会う以前に、気まぐれで助けた人族ヒューマンの少女に似せた姿をしていた。


「友達の握手じゃ。人族ヒューマンはこうやるらしいのじゃ」


レヴィとソロモンは手を握り、友となったのである・・・だが、友となって何百年とつがいまだ知らぬことがあまりに多い。


レヴィは、少し離れた所に、船の残骸の木にしがみついている人や小舟ボートに乗っている者を見た。


昔の思い出を仕舞しまう。


「そろそろじゃ」

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