第5話 契約と代償

黄金の林檎リンゴヴァイスハイトを使ったアップルパイを食べ終えたクレアは、現実に引き戻された。


これまでの事を頭で整理するが、自分ではないと思えるほど思考が鮮明クリアとなる。


考えがまとまったクレアは立ち上がり、緊張した琥珀こはく色の瞳はソロモンへと向かい真剣な表情で伝える。


「ソロモンさん、お願いします。助けてください」


「まぁ、座って。ひとまず、話だけは聞くよ」


ソロモンはクレアを座るようにうながした。


レヴィが割り込んで聞きそびれていたが、話を聞こうとは思っていた。


クレアが誰かと一緒に来たことは容易よういに想像できる。


小さき娘が一人小舟でこの僻地へきちの島にたどり着けるほど、この場所は甘くはない。


昨日の嵐による船の難破なんぱ妥当だとうだと思いあたり、広範囲の”探知の魔法”をかけており、既にそれらしき存在も確かめ終わっている。


クレアは、着席してこれまでの経緯けいいを話し始めた。


「我がクリスタル王国とマドゥーラ帝国がいくさとなり、王都クリスタニアの近くまで攻め寄せられています。そこで国王陛下に、叔父おじであるディアマント公爵の領地へ行くように命令されました。そして、危険を承知でこの海域のそばを通って快速船で公爵様の元へ向かう予定でしたが、途中嵐に会い供回ともまわりともはぐれて、今の状況となります」


ソロモンはあきれて言う。


人族ヒューマンは相変わらずだねぇ。始終しじゅういくさをしている」


ソロモンの感想に、クレアは続けて話す。


「マドゥーラ帝国は卑劣ひれつにも、魔族と結託けったくし我が領土と周辺諸国を蹂躙じゅうりんしているのです。今は、兵士達や創聖剣の加護により何とか持ちこたえておりますが、いつ落ちるともわからぬ状態まで来ております」


「助けてくれと言ってたけど、俺は見ての通りスケルトンだし・・・。人族ヒューマンたちが言うところの悪い魔族の手先かもよ?」


「ソロモンさんは、私を助けてくださいました。そう簡単に私がこの島にたどり着けるとは思えません。ソロモンさんが手引きしてくださったとしか・・・。そして、助けられた時、私は寝ていましたが、暖かい魔法で目覚め、食事も出してくれました・・・。私を国王陛下・・・お父様の元へと連れて行って助けてください。お願いします」


「お父さん所へ戻るより、その叔父おじ様の所へ行った方がいいのではないかい?」


「ソロモンさんの魔法ならお父様を助けられる。そう思えるからです。私が公爵様の所へ行くよりも・・・」


「単なるスケルトンの俺に、助けるメリットがあると思えないけど」


右手を胸に添えて、クレアは答える。


「私です。私、クリスタル王国 第一王女 クレア・クリスタルをもらってください。どのように使ってもかまいません。ソロモンさんに食べられてもかまいません」


ソロモンはあきれたように言う。


「自分が何を言っているのかわかってるのかい。それに、人は食べないけどね」


ソロモンの恐ろしさを知っているレヴィは、口をはさむ。


「ソロモンと契約じゃと、正気かクレア」


クレアは、一瞬レヴィを見るが、再びソロモンをまっすぐ見る。


「ソロモンさんは、財宝に興味はないでしょう。時間も力もない今の私に渡せるものはこれしかありませんから・・・」


少し間を置き、ソロモンはげる。


「クレア・クリスタル、君の覚悟かくご受け取ったよ。まぁ悪いようにはしないさ・・・」


「ソロモンさんと運命の神ロットに感謝します」


クレアは、右手を胸元へもっていき、上から下へを描くようにして運命の神ロットへ祈る。


ソロモンは、契約するために用紙を出して契約内容を 流れるように書いていく。


魔術言語で書きこまれており、言語を知らない者は読めない。


ソロモンが書いたのは、魔道士が使う高級魔術言語だったので、さらに限られたものしか読めないのだが・・・。


そこには、守秘義務に関する機密保持契約が書かれているだけであった。


秘密が非常に多いスケルトンなので、いろいろな所で拡散されるといろいろと面倒なことになるとの判断である。


ソロモンは、最後に自分の署名しょめいを行い、クレアの前に契約書と筆を転送する。


「俺の名前の下に自分の名前を書いて。契約書の内容は確かめなくていいのかい?」


クレアは、高級魔術言語を読めないが即答する。


「ソロモンさんを信じます」


クレアはふるえる手で自分の名前を書いたが、書き終わった途端とたん、契約書は一瞬で燃えた。


「契約はったよ。これからは俺のことと呼んでね」


「先生・・・わかりました。先生ですね」


クレアは素直に答える。


ソロモンはそれを見てうなずいた。


先生と呼ばせることについて、少年と目の前の少女をかぶせてしまい、少し感傷的になり過ぎたかなと思う。


今後は、クレアにはいろいろと教える予定なので、先生で間違いはないのだが・・・。

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