第4話 黄金の林檎

クレアは、呆然ぼうぜんとしていた。


初めて目にしたが、海の竜王リヴァイアサンだとすぐに確信できた。


目の前にいる存在が数多あまたの船を沈めてきたという、恐怖の象徴しょうちょう


淡い水色のワンピースを着たおさなき子供の姿になっていても、その覇気オーラ微塵みじんも変わらない。


ソロモンがかけた”鎮静ちんせいの魔法”の効果を受けているとは言え、まだ子供であるクレアには、どうしようもない状況であった。


そんなクレアをよそに、ソロモンはリヴァイアサンに問いかける。


「なぁ、レヴィ・・・食えるのか?アップルパイ」


ソロモンとレヴィは、かれこれ七百年ほどの付き合いであるのだが、食事を共にしたことは一度もない。


ソロモン自身はスケルトンだから食事をしないし、たまにやってくるレヴィは海で魚か何かを食べているのだろうと思ってたからだ。


「あたり前じゃ。レヴィをなんじゃと思っておるのじゃ」


レヴィのアイスブルーの瞳が少し不満を訴えている。


「んー、リヴァイアサンだな」


「レヴィは、すんごいドラゴンじゃ。何でも食べられるのじゃ。美食家グルメなのじゃ」


「そうか。雑食グルメなのか・・・海にずっといるから、てっきり魚しか食べないのかと思ってたよ」


「生きが良くて魔力が高い魚はうまいのじゃ」


レヴィは、可愛かわいらしく青い髪を揺らしながら力説していた。


ソロモンはイスを一脚いっきゃく追加した。


「まぁ、食べられるのであれば、アップルパイ出すからとにかくそこに座って。あと、クレアが来ているから覇気オーラおさえてね」


覇気オーラを抑えたレヴィに、アップルパイのホールと林檎リンゴジュースを出してあげる。


ソロモンは、気を利かせてナイフとフォークも出しておいたが、それを無視して、レビィはホールを手づかみしながら猛烈もうれついきおいで食べ始める。


そして、パイをかじり、ジュースを飲むをり返した。


レヴィのアップルパイが猛烈もうれつな勢いで無くなってしまうと、クレアのアップルパイに目を釘付けにして、問いかける。


「クレアとやら、食べぬのか?」


レヴィをずっと見ていたクレアは、あのリヴァイアサンから質問されていることにはたと気付く。


「たっ、食べます。これは私の分なのであげられません」


勇者クレアは、リヴァイアサンの恐怖に打ち勝ち、アップルパイの誘惑に打ち負けた。


フォークという武器を手に持ちアップルパイの攻略を再開する。


レヴィは名残惜なごりおしそうに、クレアのアップルパイを一瞥いちべつすると、ソロモンに声をけた。


「それにしても、ソロモン。これはなんだったのじゃ」


「アップルパイだよ」


「アップルパイはわかっておる。そういうことではないのじゃ」


ソロモンに質問の意図いとが伝わる。


「あぁ、黄金の林檎リンゴヴァイスハイトで作った・・・ジュースもね」


「ヴァイスハイトじゃと。それをいったいどこで手に入れたのじゃ」


レビィの口調がきびしくなる。


ヴァイスハイトを一齧ひとかじりするだけで知恵者にも不老不死にもなると言われる神代かみよのモノであるが、その効果については正確な所はわかっていない。


「うーん。俺の家?かな」


今ソロモンが住んでいる場所は、木や草などが存在しなく果実などりようがない過酷かこくな環境の島なのだ。


「そこは、どこじゃ」


「ここではないだろうね。まぁ、そのうち機会があれば連れて行くよ」


今これ以上追及しても無駄そうだと、レビィは結論付ける。


レヴィは、美味しそうにアップルパイを頬張ほおばっているクレアを見る。


「レヴィはともかくじゃ。人族の子であるクレアがヴァイスハイトを食べてしまった・・・いったいこのむすめをどうつもりじゃ・・・」


その存在が神に近いリヴァイアサンが食べるのと、人族が食べるのでは全く意味が異ってくる。


「どうするつもりもないよ、美味しければ何でもいいでしょ」


ソロモンは、全く問題はないと言わんばかりであった。


当然、おいそれと誰にでも食べさせて良いものではないとは思っているが、ソロモンの感覚で言えば、全能力が底上げされて長寿になる程度のものだった。


レヴィに”洗浄せんじょうの魔法”かけて言う。


「それよりも、レヴィはフォークを使って食べないとな。手がべとべとだろ」


そっちの方が問題だと言わんばかりだった。

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