第3話 来訪の理由

不思議なスケルトンから提供された食事は、盛りつけがどれもとてもはなやか、んだクリスタルで作られたうつわは宝石のようにまばゆく輝き洗練せんれんされ、一言で表現するととても美味しそうに見えた。


クレアは、ソロモンが冗談じょうだんを言ったのか本当のことを言ったのか判別はつかないが、千年前の食べ物と話を聞いたので、繊細せんさい細工さいくのついた黄金色にかがやいた液体がはいったグラスを恐る恐る手に取った。


目をつむりつつ、林檎リンゴのジュースを口の中へと注ぎ込む。


しかし、一口入れた瞬間、杞憂きゆうは取り払われ、そのとりこになってしまう。


それからは、所作しょさ丁寧ていねいで美しいが、食事に集中してしまい、心ここにあらずで言葉もでない。


王族であっても口にしたことがない至福の数々であり、そのどれもが素晴らしかった。


クレアは、やはり自分は死んでしまったのではないかと錯覚さっかくを起こすほどである。


「クレア、クレア・・・おーいクレアさーん」


ソロモンは声を掛けるが、心ここにあらずのクレアからの反応は無く黙々もくもくと食事を続けている。


ソロモンは、食べ終わるまでは、話しかけても無駄だなと思いクレアを観察を行った。


やはり見知っている人物に似ていた。


思い起こした者は、人族の少年であったので、雰囲気ふんいきが似ていただけであるが。


オレンジ色の髪、琥珀こはく色の瞳、そして何かに集中すると周りが見えなくなってしまう・・・昔のことを少し思い出しつつクレアが食べ終えるのを待っていた。


しばらくたってから、夢見心地ゆめみごこちから抜け出したクレアがソロモンへ声をかける。


「ソロモンさん、ごちそうさまでした。言葉に表せないくらい素晴らしいお食事でした」


クレアは、満面の笑みであり本当に満足しているようであった。


血のめぐりがよくなったためか、ほほもほんのりと上気させている。


「うん。それはよかった」


ソロモンは、テーブルの上に手を掲げると、一瞬で食器をかき消してしまう。


その後、クレアの前には、あわい色の花のような香りの紅茶とカットされた見事なアップルパイが現れた。


「それを食べながらでも、聞いてほしい」


ソロモンからの要望に、クレアの目線がアップルパイとソロモンを何度か往復おうふくさせた後、うなずいた。


うなずきはしたが、やはり誘惑には勝てずにアップルパイを一口・・・クレアは固まり、可愛らしい目を丸くしている。


話を聞ける状況ではないと判断したソロモンが、海をながめる。


ながめた海の沖合から、最初はいくつもの小さな泡が、そして、大きな泡がき上がってくる。


その直後、轟音ごうおんと共に、すさまじい高さの水柱が立ちのぼる。


アップルパイに気を取られていたクレアも海がぜる音を聞いたので、その発生源を見ると、今度は驚きで目を丸くした。


海には伝説と言われる巨大な海竜リヴァイアサンが鎌首かまくびをもたげ、こちらをするどにらんでいた。


そして、クレアが危機を感じるほどの勢いで、こちらに向かって海をかき分けてやってくる。


リヴァイアサンは、砂浜まで近づくと人型に変化し、猛烈もうれつな勢いでけ寄ってきた。


人の姿をしたリヴァイアサンは、左手を腰を当て、アップルパイに向かって右手の人差し指を突き出す。


「そこの小娘が美味しそうなものを食べてるので、レヴィは急いで来たのじゃ」


その小娘クレアよりも、一回ひとまわりはおさない少女の姿をしたレヴィがデザートに釣られてやって来た。

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