第2話 少女と骨

小舟ボートで眠っていた少女は、あたたかさにつつまれたと感じた。


ゆっくりと目を開けると、目の前には頭蓋骨スカルが・・・本来目がある場所のくぼみにあおほのおを揺らしながらこちらをのぞいている。


物語などに登場する死の神シェラザード が現れ、とうとう自分は死んでしまったのではないかと思いつつ、声も出せなかったが、不思議ふしぎ恐怖きょうふは感じなかった。


スケルトンが”洗浄せんじょうの魔法”をかけた際、恐怖心がやわらぐ”鎮静ちんせいの魔法”を行っていたためである。


また、衰弱すいじゃくした状態から体力が回復するようにと”回復の魔法”等も同時にかけていた。


少女は、スケルトンから声をけられた。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


少女は、琥珀こはく色のひとみをスケルトンからそらさずに無言でうなずく。


「そう、それは良かったです。立ち上がれますか?」


スケルトンは立ち上がり、少女もそれにならって立ち上がる。


そして、スケルトンは少女に向いて、語り掛ける。


「俺の名はソロモン・・・。この名を名乗ったのは、あなたで二人目ですが・・・」


片方の手を胸に当てながら、飄々ひょうひょうとしながらも芝居しばいがかった挨拶あいさつをして、骨の頭を下げた。


頭をあげたスケルトンは、再度少女に問いかける。


「それで・・・お嬢さんは、どこのどなたでしょう?」


質問を受けた少女は、スカートの両端りょうはしすそを少し持ち上げて、カーテシーと呼ばれる挨拶あいさつを可愛らしく優雅ゆうがに行った。


「私は、クリスタル王国第一王女クレア・クリスタルです。以後お見知りおきを」


見事な挨拶を終えたクレアは、少し間を置きソロモンへ質問する。


「あの・・・、私・・・嵐にあって死んでしまったのでしょうか?ソロモン様・・・あなたは死神様なのでしょうか?」


「ふむ。クレアさんの質問は二つですね」


ソロモンは、肩の位置まで左手を軽く上げ、手をにぎった状態から人差し指を立てた。


「第一に、あなたは死んではいません。それに、転生もしていませんね。ちゃんと生きてます」


そして、中指も立てV字をつくる。


「第二の質問、俺が死神かという問いですが、答えはノーです。ノーと言える死神・・・ではなく、スケルトンやってます」


クリスタル王国の第一王女を名乗った少女へと明確に回答する。


「あと、ソロモン様という呼び方は非常に堅苦かたくるしいし、そういうのは苦手なので、ソロモンと呼んでね。俺もクレアって呼んでいいかな?」


急に砕けた口調になったソロモンに、少し可笑おかしくなってしまったクレアは、可愛らしくほほ笑んでうなずいた。


「分かりました。どうぞ私のことはクレアと呼んでください。私はソロモンさんと呼びますね」


そして、可愛らしい腹の虫の音が鳴る・・・クレアは頬に手を当て顔を赤らめた。


スケルトンのソロモンは、砂浜の上に、立派な造りをしたテーブルやイス、日よけを一瞬で出した。


「では、お互いの挨拶も終えましたし、食事をしながら少しお話でもしましょうか・・・俺は食べないけどね」


瞬時しゅんじにイスのそばへと転移を行い、イスを引きクレアを座るようにうながす。


「ささっ、どうぞ。お姫様」


クレアは、目を丸くして驚きつつもうながされるまま座り、それを確認したソロモンも向かいの席に座った。


ソロモンは、少しだけなやみ、つぶやく。


「食事ね・・食事・・・かれこれ千年ほど食べてないからなぁ」


そして、ソロモンがテーブルに手をかざすと、クレアの目の前には、王侯貴族でも見たことがない黄金色こがねいろに輝くの林檎リンゴのジュースと色鮮やかな食事の数々が現れた。


「千年前くらい前のものだけど、食べられると思うよ。時間止めてあったし。口にあえばいいのだけど」


さらっと危険なことをいうソロモンであった。

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