第4話 アイツの餌はお姫さま

「はぁっ!? いやいや、さっきまで息してたじゃん!」

「うん、してた」

「お前なんかした?」

「いや、なんも。背負っただけ」

「背負っただけって······」


 いや、それは側で見ていたから俺も分かっている。

 つい、訪ねずにはいられなかっただけだ。


「じゃあなんで!?」

「それは俺が聞きたい」

「あーもう、どうすんだよ!? こんな中、医者探すのか!?」


 周りはさらに混乱を極めた状況。蜘蛛の子を散らす魚が、次々と黄色いクチバシの内へと消えている。自分で言っておいてなんだが、医者を探すなんてのは無茶でしかない。


 すると、やや女の子を背負ったまま視線を下げる佑哉。


「······慶介。これは夢みたいなものだと思うか?」

「あ?」

「あんなカモメ、現実じゃありえねぇよな?」

「そりゃあそうだけど、どうした突ぜ――」

「ありえねぇよな?」

「······そ、そりゃあ、まぁ······」


 それを聞いて、やや力のなく見える目で辺りを見回す佑哉。だが、俺はこの時こいつが小さく「よし」と言ったのを聞き逃さなかった。だがしかし、今はそんなこと歯牙に掛けている余裕も俺にはない。


「とりあえず、いいから走るぞ! もう、すぐそこまで来てる。次は狙われてもおかしくねぇから!」


 また一人、魚を咥えては空へと飛び上がり、クチバシを上にぷいっと振っては放り投げた魚を呑み込む巨大カモメ。食われたのは鮫のフォルムを纏う巨漢。


 それから、再び風を駆け抜けて降りてくるカモメ。

 今度はこちらには向かっていた。


「あぁくそっ! あの鳥、こっち来(く)んぞ! その子が息してないのは目瞑るからひとまず逃げるぞ!」


 ジェスチャーを交えて、自分達に危機が近付いていることを必死に佑哉に伝える。だが――、


「······」


 佑哉はまだ動かない――が、カモメがあと数秒で近付こうというところで、


「······慶介」

「あ?」

「人には優先しなきゃならないことがある。これから俺がすることは何があっても見過ごしてくれ」


 その直後、佑哉は背負っていた女の子をお姫さま抱っこした。そして彼は――、


「お前なにして――」

「せいっ」


 そのお姫さまを、カモメのいる後方へ投げ捨てた。

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