第5話 判断と責任

 まるで“それ“を餌――もとい囮にでもしたかのような佑哉は俺を通り越し、我先にと走り出していた。


「お前なにしてんのおおおおぉ!?」


 すぐに佑哉の後を追いかけた。そして、並走しながら、


「ちょっと待って、ちょっと待って!? 見過ごせって言ったけどお前、今とんでもないことしたよね!? なに女の子放り投げてんの!? ってかなに、俺女性経験浅いけど、女の子ってあーやって扱っていいもんなの!?」


 ちなみに現在、マンボウの女の子はカモメに咥えられ上空。そして、例に倣って宙に放られては丸呑みされた。


「ほら!? いま喰われたよ、あの子!? 数字減ってないからもう死んでたかもしんないけどお前、人としてどうなのよそれは!?」

「いや、だから見過ごしてくれって言ってるじゃん」

「そうだけどさ! でも普通、あんな風に捨てねぇよ!」

「そっと捨てりゃ良かった?」

「ち、が、う! あのな、いくらなんでももうちょっと慈悲ってもんを――」

「慶介」

「あ?」

「いま走って俺等はなんとか逃げれてるけど、この状況で、あの子を背負って逃げれたと思うか?」

「い、いや、そりゃあ······」

「俺のさっきのは、確かに思いやりなんてない。けど、そっと置くより投げた方がヤツの目に止まると思った。だから、クリアすれば元に戻るかもしれない――一人でも多く生き延びなくちゃならない状況で、こいつをクリアするための最善を尽くしたと、俺は思ってる。あのままだったら俺かお前、どちらかが喰われてたかもしれない」

「で、でもな――」

「十中八九、俺だろうな。······ただ、お前もさっき言ったろ? クリアすれば元に戻るかもしれないって。これは夢みたいなもんだって」

「言ったけど······」

「俺はお前の目を買ってる。責任の押し付けとかそんなんじゃなくて、同じ会社に勤める同僚としての付き合いから、お前の考えを聞いてあの行動を選んだんだ。それでも、このふざけたゲームをクリアすることを優先した俺を軽蔑するならしてくれていい。人としてそれが正しい反応だろ」

「佑哉······」


 こいつは確かに、女性に対しての扱いが軽いなと思う部分はある。だが、いま隣で走るこいつの目に嘘はなく、少し寂しく、だが、大局を見据えての行動に違いないと――そう感じる目だった。それは、佑哉が言ったのと同じ、共に切磋琢磨してきた同僚としての経験からくるものだった。


「ただやっぱり、気掛かりなことはあるんだよな······」

「気掛かり?」

「なんであの子だけ倒れたかって話だ。周りじゃ誰も倒れてなかったの――気付かなかったか?」


 背後から聞こえる悲鳴も忘れるぐらいに、それは自分では気付かぬ発見だった。

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