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「つまり今回の一連の騒動の発端も黒幕もお前さんだったって訳なのかアデラール」


「厳密に全ての事柄が俺の思惑の上で、と語るのは語弊はあるが、少なくともあの娘...アストレアと言ったか、と貴様たちが関わり執着している騒動に関していえばそうなるのであろうな」


 全く悪びれた様子もなく淡々と告げるアデラールからは罪悪感や負い目の如く感情は垣間見る事は敵わず事実として感じてはいないであろう、その眼差しには...だが、貴族特有の性根の傲慢さや倫理観の欠如とは異なる確かな覚悟の輝きを帯びていた。


 エドヴァルドにしてもこの突然の告白が懺悔の類いの話ではない事くらい、良く知る友の事ゆえに察してはいたものの、いや......理解出来てしまうゆえに心中穏やかとは言えず知らず顔を歪めてしまう。


 善行であれ非道であれ、この男が行ったなら、それには相応の理由があり覚悟があり、それが決して一時の享楽や愚行の結果の果てではないのだと、分かってしまうゆえに。友とアストレア。互いに譲らず曲がらぬ性格は良し悪しなれど互いを知るエドヴァルドとしては両者が辿るかも知れぬ最悪の結末が脳裏に過ってしまうのは避け得ぬ現実として杞憂とは言えぬ確信がエドヴァルドを悩ませていた。


「なあ、アデラール。何故そんな真似をした、と訊いちまうのは馬鹿な質問か?」


「いや、無論......お前の置かれた立場なら至極真っ当な問いであろうな」


 エドヴァルドの声音には怒りはなく、答えるアデラールも落ち着いた様子が感じられ其処に動揺の如く乱れた感情の発露は見られない。淡々と..だが、確実に緊張を孕む場の空気とは裏腹に向かい合う旧友たちの会話は静かに時を刻んでいく。


「エドヴァルド、お前が関わった事で状況が複雑化してはいるが本来、今回の件とお前をこの国に呼んだ理由は無関係だったと、それだけは知って置いて貰いたい」


 友であるお前を必要とした理由と個人的な謀事である今回の一件は全くの無関係であり、お前を巻き込む気も利用する気も初めから無かったのだ、と。アデラールはエドヴァルドに語る。


「それはもうどうでも......いや、今となっちゃあ遅すぎる告白だぜアデラールよ。どうあれ俺の身内が関わっちまった以上、これは既に俺の問題なんだからな」


 対して真顔でアデラールを見据えるエドヴァルドの眼差しには鋭さが増し応じて一層に場の空気が引き締まる。


「前置きは必要ねえ、さっさと俺の質問に答えてくれねえか。だがよ...此処が分岐路だぜアデラール。答えによっちゃあ、お前との腐れ縁を終いにするだけじゃ済まされねえぞ。これは俺の身内に関わる問題なんだからな」


 友より家族を優先するとその目は語り、言葉は覚悟を示す。ゆえにであろう、対峙する友の在り方にアデラールが視るのはまさにもう一人の己の姿であった。


「身内の為......か。同感だエドヴァルド。ゆえにこそ、これは運命の必然というモノなのであろうな」


「さっきから何が言いてえんだお前は」


「俺もまたお前と同様......」


 其処で思い直した様にアデラールは口を閉ざす。それは失言の類いを案じたというよりも.......此処に居ぬ誰かを想いアデラールは苦笑する。


「譲れぬ理はある、が、お前やあの娘と刃を交える未来は俺の本位でも望む顛末でもない。ゆえに落とし所を相談したい」


「だからっ、それは話の内容次第だってんだろうがよ」


 苛立つ友を尻目にアデラールは一度深く瞳を伏せる。それはまるで覚悟を定めるかの様に。


「瘴気によって人体は魔獣へと転化する。だが、魔獣の血液という穢れを直接的に体内に取り込ませる事で人為的に転化を促す方法があるとしたら。人の意識を保持したまま魔獣の能力だけを得られる術があるとしたら。お前ならどうする?」


「てめえ......アデラール。お前まさか」


「北壁が辺境との境界線などと言う話は人間が定めた呈の良い理屈に過ぎぬ。実際の環境を見れば知れる。この国の北方は辺境と同じ......いや、そのものだとな。ゆえにその地で代を重ねた世代であれば魔獣の血に適合する人間が居るやも知れぬ。その希望こそが俺の息子の命を救える只一つの望みなのだ」


 動機は一つ。


 エレーナの忘れ形見。


 己の息子の為に、と。



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