悪役令嬢になんかなりません。私は『普通』の公爵令嬢です!/明。
<もしも性別逆転したら>
清々しい朝。目が覚めたら、大変なことになっていた。
「ぎゃあああああ!?? ない! ないい!」
大切に育てていた自慢の胸と、長い髪が消えていた。
「ぼっちゃま! どうなさいました!?」
「マー………サ?」
顔だけ見れば頼りになる我が家のメイド長マーサ、なのだが……首から下が男性になっていた。顔も心なしか男っぽい。
「ロザリンド雄ぼっちゃま、わたくしはマー太ですよ?」
「名前が雑過ぎやしないか!?」
脳内で漢字変換されるんだけど、男っぽい漢字をあてればいいってもんじゃない!
「はい? わたくしは以前からこの名前でございますよ。ぼっちゃま、学校に遅れてしまいますよ。ラビ太、ぼっちゃまのお召し替えの手伝いを」
「はい」
頼れる忍者メイドのラビーシャちゃん改めラビ太君は、やはり仕事はできる子らしく、テキパキと着替えを手伝ってくれた。眼鏡で三つ編みの少年なラビー……ラビ太君……違和感しかない。違いは三つ編みが二本から一本になっているぐらいか。
しかし、ラビ太君より鏡に映る美少年の方がえらいこっちゃである。私もどこからどう見ても男になっていた。懸命に育てていた自慢の胸も長い髪もない。代わりにならんが股間に異物がありました。いらんわあああああ!!
げっそりしつつも食堂へ。すでに家族がテーブルについていた、のだが……。
「おはよう」
「おはよう、ロザリンド雄ちゃん」
「おはよう、朝から叫ぶのはやめてよね」
兄? の言葉はちっとも頭に入らなかった。父が母で、母が父で、兄が姉になっている! ややこしすぎて混乱してしまったからだ。
「オハヨウゴザイマス。モウシワケゴザイマセン」
辛うじてどうにかそれだけ言うと席についた。なんでも、父(今は母だけど)は母(今は父だけど)が病弱だから代わりに公務を代行しており女公爵兼宰相なんだって。父(今は母だけど)カッケエ! でも相変わらず目つきはキツい。氷の宰相なのも変わらない。
「腹一杯食べてくださいね!」
シェフのダン子さんも配膳してくれた。せっかくの朝御飯だが、ゲータがゲー子さんというワイルド美女に変身していたのが気になって、味が全くわからなかった。あまりにも面影がなかった。チンピラ風からワイルドな姉御になってた。
学校に行くと、教室で女子に囲まれた。そりゃそーか。将来有望な公爵子息だもんねー。しかし、チラホラ見知った顔が女子になっててすごーく微妙だわぁ……。
「おはよう、ロザリンド雄」
そのストロベリーブロンドには見覚えが……まさか……まさか……!?
「きゃあ、ミルフィリ雄様!」
やっぱミルフィ!! 美人だけど微妙!! すごくイケメンだけど微妙!! ミルフィはやっぱ美少女でいてほしい!!
「騒がしいと思ったら、やはりロザリンド雄達か」
「人が常に騒ぎの元凶みたいに言わないでくださ……い?」
ほぼ反射で言い返した。声からして、アルディン様? 毎日キラキラ物理的にも輝ける白様こと、アルディン様……が、金髪巻き毛の美少女に!! いや、このビジュアルなら俺様改めワガママ姫様でフツーにギャルゲーにいそう! めっちゃ可愛い! アリだな!!
「アルディ子様。お騒がせして申し訳ありません」
素直にミルフィが謝罪した。そして、この常に雑な名前はどーにかならんのか! 微妙すぎるわ!!
「皆様、早くお戻りにならないと授業が始まってしまいますわ」
輝ける白様は変わらない輝きとカリスマ性を持っていた。おかげで、皆は素直に自分の教室や席へ戻ってくれた。
担任も性別逆転していて、微妙過ぎて授業内容が頭に入らなかったのは仕方ないと思う。
ランチタイムには、兄(今は姉)以外に、アルフィージ様がついてきた。クールビューティーな外見に、温和な笑顔。ありだな。名前はアルフィー美だった。だから、名前酷い! いろいろ台無し! 責任者、出てこい!!
当然護衛もついてきた。カーティスことカーティ子と、双子……ん?? アデイルだけ見た目があまり変わらないわ。ヒュー子は微妙なのに。カーティ子も微妙だけどヒュー子ほどではない。ちなみにカーティ子は元気なショートヘア女子。ヒュー子はセクシーで軽そうな感じ。そして違和感がないアデイル子は……男装女子。何故かアデイル子はすっぴんアデイルである。普通にイケメンだ。エセオネエも美人だからいいが、やはりすっぴんの方がカッコいい。
しかし、こうして性別逆転した皆を見ていて思った。ギャルゲーだったらアリだったかもしれない……と。
アルディン様→バカ殿→ちょっとおバカなワガママ姫
アルフィージ様→腹黒様→腹黒クールビューティー
カーティス→アホ犬→やんちゃ女子
兄→チョルー(チョロいルー)→知的女子ややチョロい
ヒュー→チャラ騎士→セクシー女騎士
アデイル→エセオネエ騎士→男装騎士
普通にアリな気がしてきた。ギャルゲーってすごい。近年では泥デレだのツンシュンだの、様々なニュージャンルが確立されている。ギャルゲーの偉大さを感じつつ、ランチタイムとなった。今日も自作の弁当を持参。男でも女でも『私』は弁当を自作していたようだ。
裏庭でピクニックシートをしき、皆でランチ。和やかな時間を過ごしつつ、私の大切なあの人がどうなったのかが気になった。
「遅くなりました」
鈴の音を思わせるような、清涼な声。胸はささやかだが、しなやかで魅力的な肢体。黒髪に琥珀の瞳が魅力的な獣人の女性が現れた。
「愛しています。今すぐ結婚してください」
「にゃっ!?」
そう、マイダーリンディルク様!! いや、今は女性だからハニーかな? 手を握られてアワアワしている。可愛い。私、ディルクなら女であっても余裕で結婚できるわ。性別なんて些事だ。
「……君は誰?」
琥珀の瞳が不安げに揺れた。
「何を言ってるんだ? ディル子の婚約者じゃないか」
アルフィージ様……じゃなかった、アルフィー美様が怪訝な表情で話しかけた。
「確かに……身体はそう、だと思うのですが……」
そう……そうだ。彼女は私のディルクじゃない。帰らなきゃ。そう思ったら、意識が遠くなっていった。
「ロザリンド!?」
「……ディルク……??」
とりあえず、胸を確認。細身ながらも固い筋肉の感触。いい大胸筋である。みんなから急に意識を失ったから心配したと言われたが、ディルクにセクハラする私を見て呆れた様子になった。
「ちょっ! なんで揉むの!?」
「いや! なんか皆の性別が逆転した夢を見てて……ディルクにささやかな胸がありました」
「そこは心底どうでもいいよね!?」
「いや、大事かと。あと、女性版ゲータがすごかったのとアデイルは変化がなさすぎました」
「……それは……すまねえな……」
「いや、別に悪くないでしょう! 変な夢を見るロザリンドが悪いわよ!」
アデイルの言う通り、ゲータは何も悪くない。
「だって……女になった俺ってことは……俺の女装だぞ? 視界の暴力だろ」
しん、と静かになってしまった。
「いや、ワイルドな姉御になってたから大丈夫」
「そうか……ならいいんだ」
よくはない気がするが、ゲータが納得したからいい……のかな?
「とりあえず、ディルクが可愛かったです。ディルクなら女性でも問題ないですね」
「……よくわからないけど、良かったね?」
皆が呆れたような表情になっていた。解せぬ。
その後、それぞれの感想を言ったりして、ちょっとズレた会話をしながらランチを楽しんだ。性別が変わったって、きっと何も変わらない。私はディルクも皆も大好きだし、きっとこうやって一緒にいるに違いない。そう思ったのだった。
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