痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。/夕蜜柑

  <防御特化とプレゼント。>



 本格的な夏が近づく頃。楓は放課後、荷物をまとめると考え事があって、席についたまま目を閉じて口元に手を当て、どうしようかと一人首を傾げている。


「ん、どうかした? 帰らない?」

「あ、理沙!」

「何か考え事してたみたいだけど」

「それなんだけど......うーん......」


 悩んでいた楓の隣にはいつも一緒に帰っている理沙が立っていた。いつものことならこのまま二人帰路につくのだが、楓はその姿を見ると改めて何かを考え始める。そうしているうち、楓の中で何か一つ結論が出たのか、楓は一つ大きく頷いた。


「おっ? 何か決まった?」

「うん! えっと、誕生日プレゼント何がいい?」

「なるほどー。確かにそろそろだったね」

「サプライズしようかなーって思ったんだけど、一番喜んでもらえるものがいいし......やっぱり聞いた方がいいかなって!」

「んー、貰って嬉しいものかあ......楓と遊べる時間かな?」


 理沙は少し考えると冗談っぽくニヤッと笑ってそう返答する。


「もー! そういうのじゃなくってプレゼントって感じのものだよー」


 冗談っぽい理沙の言葉に、楓もまた分かりやすく少し頬を膨らませて返す。じゃれ合うようないつものやりとりはそれくらいにして、理沙は今欲しいと思えるようなものを考え始めた。


「そっかそっか、んー......まあ一番はゲーム用品とか、ゲームソフトとか?」

「やっぱりそういう感じだよねー」


 予想はしていたものの、ゲーム関連となると楓はいよいよ詳しくない分野である。理沙が喜んでくれるものを一人で選ぶのは難しいというわけだ。


「じゃあさ、よければ今日一緒に見に行かない? ほら、その場で二人で見て決めれば間違い無いでしょ」

「おおー! 確かに! 賛成賛成!」

「よしっ、決まり! なら早速行こ? そんなに遠くないからさ」

「はーい! 案内はお任せしまーす!」

「うん、任された!」


 楓は荷物を持って立ち上がると理沙と並んで学校を後にするのだった。




 理沙の案内で街を歩き、二人で目的のゲームショップへとやってきた。理沙曰く品揃えもよく、大抵のものなら問題なく見つかるだろうとのことである。


「これって決めてるわけじゃないし、色々見られる方がいいでしょ」

「うん!」


 そのまま店内へと入り並んでいる新作ゲームを眺めていく。


「えっと、理沙はどういうの欲しいとかある?」

「んー、改めて聞かれると難しいなあ。本当に欲しいゲームソフトは出てすぐに買っちゃうし」


 理沙の言葉にそれもそうかと楓は納得する。理沙の部屋には大量のゲームソフトが並んでおり、そこからも察せられることではあったが、めぼしいゲームは一通り手をつけているのである。


「それだとあんまり欲しくないゲームになっちゃうよね。うーん、他に何かある?」


 楓がそう聞くと、理沙は今欲しいものを改めて考え直す。ゲームソフトはもちろん周辺機器などについても考えるがちょうどいいものは思いつかない。


「思ったより思いつかないね。あんまり高すぎてもあれだし......ごめんね?」


 欲しいものと聞かれてぱっと思いついたのはゲーム系だったが、よくよく考えてみるとちょうどいいものが見つからなかったのだ。


「そういえば私は買いすぎてるくらい買ってたから......」

「うぅ、名案だと思ったんだけど」


 そうやって肩を落とす楓を見て、理沙は少し考えて口を開く。


「じゃあさ、こういうのはどう? ここに並んでるゲームソフトの中から楓が一つ気になるのを選んで、それをプレゼントしてよ」

「えっ? でも、嬉しいものを選ぼうって決めてたのに面白くないのを選んじゃうかも。私は本当に詳しくないし......」

「ふふっ、面白くないゲームなんてないよ。何だって楽しみ方次第」

「むぅ、上手く言いくるめられたような......」

「あはは、そう? でも、これは本当。それに、楓が選んでくれたものなら楽しいって」


 自分のことでないにもかかわらず、自信ありげにそう言い放つ理沙を見て楓も腹をくくる。


「よーし、そこまで言うなら選んじゃうよ!」

「うん! ......あっ、ホラー系だけは無しで......あれは、まだ楽しむだけの力が私にないから......」


 その力は当分つくことはないと思われる。それは楓も分かっていることで、きっちり一つ一つゲームの説明を見てホラー系は選ばないようにするつもりである。


「あっ! 選んだのが持ってるゲームだったら?」

「あーそっかそういう場合もあるよね。んー......それだったら私の家で楓にそれをプレイしてもらおうかな」

「おっけー! そのうえで選び直すねー。よーし......」


 いつも通りのゲームを薦める理沙だと思いつつ、楓はゲームの棚に目を移す。そうして棚を眺めて悩んでいた楓だったが、しばらくして一つのゲームを手に取った。楓はパッケージに書かれている説明を確認すると、これに決めたとばかりにそれを理沙に見せる。


「おおー、RPG」

「あんまりゲームしたことないからどんな感じか分かるの少なくて」

「なるほどね」

「ほら、初めて理沙と遊んだのもRPG? だったでしょ?」

「......覚えてた?」

「えー? 覚えてるよー!」

「そっか、そっか......」

「でね、あの時楽しかったし! これだったら変なのプレゼントしたりしないかなって」


 楓なりに面白さが分かる数少ないジャンル。理沙へのプレゼントとして選ぶには十分な理由である。


「ど、どう?」

「......え?」


 どこか上の空に見える理沙に声をかけて、楓は理沙がこのゲームソフトを持っているかを確認する。


「あ、ああうん。えっと、これは持ってないかな」

「ほんと!?」

「うん。長編RPGは基本は一作ずつ買うことにしてるんだよね。クリアに時間かかるし、すぐ次って訳にもいかないから。で、今は楓とゲームしてるから一旦買うのは止めてたって感じ」


 今は『NewWorld Online』に多くの時間を割いており、他は短い時間で遊べるゲームに限って手をつけている状況である。

 楓が選んだのはちょうどこうして買うのを止めていたゲームだったのだ。


「よーし、じゃあこれにするね!」

「うん、誕生日楽しみにしてる」


 レジに向かっていく楓の後ろ姿を見つつ、理沙は一人ふと呟く。


「......覚えてたんだ」


 ただそれだけのことで自然と笑みがこぼれるのは、それが理沙にとってこの上なく嬉しいことだからである。

 少しして、会計を済ませた楓が戻ってきて二人は今度こそ家に向かって歩き出す。


「綺麗にラッピングしよっと!」

「おー、期待しておこうかな」

「サプライズはできなかったけど、分かってても嬉しいようにするね!」

「......サプライズもあったけどね」

「......?」


 理沙のその言葉によく分からないという風に首をかしげる楓だったが、理沙は不思議そうにしている楓にそれ以上何かを言うことはなかったのだった。




 そして誕生日当日。楓は理沙の家で、カバンから丁寧にラッピングされたゲームソフトを取り出して手渡す。


「はい! 誕生日おめでとう!」

「うん、ありがとう。早速開けていい?」

「いいよー!」


 理沙が受け取ったプレゼントを開けると、そこには二人で買いに行ったゲームソフトが入っている。


「中身は知ってたけどねー」

「えへへ、そうだね。どう?」

「嬉しいよ。......ま、じっくりプレイしようかな。楓からのプレゼントだしね」


 理沙はそのパッケージを見つめると、とりあえず今日は大事に棚にしまっておくことにして、ソフトを手に立ち上がる。


「あ、理沙! ちょっと待って!」

「ん? どうしたの?」

「ちょっとやってるとこ見せて欲しいな」


 楓からというのは珍しく、理沙は目を丸くする。


「だって、本当にちゃんと面白いか心配だし......」

「あはは、なるほどね。いいよ、じゃあちょっと遊ぼう」


 理沙はしまおうとしていたゲームソフトを一旦楓に渡して準備をする。楓はそれを待ちながらゲームソフトを改めて眺めていた。


「準備できたよ」

「はいはーい!」


 理沙がコントローラーを握り楓が隣で画面を眺める。画面にはタイトルが表示され、今から冒険の始まりといった様子である。


「......やっぱり、いいな」

「タイトルの時点で分かるの?」

「うん、分かるよ」

「すごいね! やっぱりいっぱいゲームやってるからなのかなあ」

「たまに交代しながらやろうよ」

「うん、分かった!」

「夜ご飯食べていくでしょ? とりあえずそれまでね」

「はいはーい!」


 楓がもう一度元気よく返事をしたのを合図にして、二人は画面に向き直るのだった。

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