死んだ鳥

@chased_dogs

死んだ鳥

 あるところに、一羽いちわとりがいました。鳥は、ちいさいけれど、うつくしい羽根はねっていました。


 ある、鳥は、仲間なかまの鳥たちと一緒いっしょに、もりなかびました。鳥は、小さなつばさ一所懸命いっしょけんめいに飛びましたけども、仲間の鳥たちのように、優雅ゆうがには飛べません。鳥がたくさん羽ばたいて、したからうえに飛び上がると、そのあいだほかの鳥たちは、二三羽をって宙返ちゅうがえりをし、また木々きぎ根元ねもとの方を飛んでいるのでした。


 仲間の一羽がいました。

きみはいつもせわしなく飛んでいるけれど、ちっともぼくらにけないね。どくになってしまうから、

 無理むりをしないでゆっくり飛んだらどうだい?」

 鳥は、頑張がんばっても仲間に追い付けないので、かなしくなりましたが、その仲間の鳥の言うことはもっともだとおもいました。

 それで鳥は、ひとりでゆっくり飛ぶようになりました。


 鳥がゆっくり飛ぶようになってしばらくあと、仲間の鳥たちに、一緒にうたを歌わないかとさそわれました。仲間に誘われるのはうれしかったので、鳥は一緒に歌うことにしました。


 森の木のあいだ木漏こもがぽっかりとすところに、鳥たちは歌を歌いにあつまります。

 みなおもおもいのえだくと、歌がはじまりました。

 鳥たちの歌は、はやく、おそく、うねるように。とき陽気ようきに、また時に悲しく、なくつづいてゆきます。

 鳥たちの熱気ねっきがいちばんにたかまると、皆は一斉いっせいに歌うのをめてしまいました。

 そしてつぎ瞬間しゅんかん、一羽の鳥が歌い始めます。一羽が歌いわるとまた一羽が歌い始め、また一羽、また一羽と歌いがれてゆきます。


 皆が順番じゅんばんに歌ってゆき、とうとう、あの鳥の番になりました。

 鳥は、小さな身体からだふるえさせながら、しぼり出すように歌い出します。段々だんだん調子ちょうしがって、こえも大きくなってくると、しかし次の鳥が歌い始めてしまいました。しかも、次の鳥が歌い出した後も歌を続けてしまったので、折角せっかくがりにみずしてしまいました。鳥は、がっかりしました。


 合唱がっしょうわった後、一羽の仲間の鳥がやってきて言いました。

「やあ、合唱たのしかったね。君が歌い出したとき、最初さいしょはドキドキしたけど、最後さいごは凄く良い調子だったよ。歌い終わりは合わなかったかも知れないけど、気にせずまた歌いに来なよ」

 鳥は仲間にはげまされ、それからも皆と歌うことにしました。けれども、いつも緊張きんちょうするので、歌を上手うまく歌えるようにはなりませんでした。仲間の鳥は言いました。

「君はあんまり歌が上手じょうずじゃないね。ぼくらと歌う前に、もっとひとりで練習れんしゅうしなよ」

 それもそうだと思い、鳥は合唱するのを止めることにしました。


 ある日、歌の練習をしに、少しとおいところへ行こうと飛んでいると、鳥は、突然とつぜんなにもないところで何かにぶつかってしまいました。何がこったかかりませんでした。本当ほんとうに、透明とうめいな何かにぶつかったようでした。

 鳥はりませんでしたが、それは大きなガラスでした。可哀想かわいそうな鳥は、何も知らずにガラスにぶつかり、そしてそのまま地面じめんたたけられるようにちました。翼はめちゃくちゃにれ、全身ぜんしんからはします。美しかった羽根のいろは、どろと血で分からなくなってしまいました。


 仲間の一羽が、鳥が落ちていくのを見ていました。そして、地面に落ちた鳥の姿すがたを見ると、それを仲間たちに伝えました。

 次々に仲間たちが集まり、鳥の亡骸なきがらまわりをかこいます。

 鳥たちは口々くちぐちにこう言いました。

「あの子はいつも一所懸命に飛んでいた」

「あの子はいつも一所懸命に歌っていた」

「あの子は小さかったけれど、あの子の羽根はとても美しかった」

 それで、鳥たちは死んだ仲間のために、歌を歌い始めました。中には空に羽ばたき踊り出すものもいました。

 鳥たちの歌とおどりは、日がしずんで空がすっかりくらくなるまで、一日中続きました。

 しかし鳥はんだままでした。

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