第67話

「とりあえずマランティとの密輸問題は関税局が動いてる。国内の容疑者は、関税局のほうで一斉強制捜査の予定になってるよ。エガント商会については、取引のいくつかを制限することになっている」

おおむね予定通りだな」


 高橋の説明は、いつもながら簡潔で分かりやすかった。


「地方役人の汚職については、現状では横槍が入って調査も不十分だし、容疑者も逮捕に至ってない状態だね。軍内部からの物資横流しも絡んでるから、捜査も軍との縄張り争いになってて、ちょっとややこしいかな。ここは残念だけど、魔導卿の出番がない」


 ちっとも残念な話ではない。

 召喚失敗例に絡むことではあっても、軍需物資の横流しや地方役人の収賄そのものは私の管轄かんかつにない。

 私の出番が無いというのは妥当な判断だろう、これはバーラン王国政府の問題だ。


「最後に、貴族院議員の事だけど。ウィリアムズが押収した書類に問題が見つかった」

「ふぅん?」


 先日の『パーティー』後に、敵拠点からウィリアムズが確保したものの事だ。


「ただの野盗団じゃないだろうとは思ってたが」

「予想通り、あの連中は情報収集と妨害のための工作員だったよ」

「だろうな」


 ウィリアムズの領地には、動乱終結後に騎兵隊を祖として結成された防衛軍がいる。

 あの連中の目をかいくぐって既存の村を乗っ取って拠点にするなど、ただの野盗に出来る事ではない。組織立った犯罪があったと考えるべきだったし、実際そういう事だったようだ。


「で、どんな計画があったんだ。どうせ鉱山がらみだろうと思うんだが」


 ウィリアムズの農地の上流には有望な鉱脈があるため、そこを所有する貴族は開発を望んでいる。

 しかし現在のこちらの技術では、鉱害が必発。ウィリアムズは鉱毒予防法を盾に開発差し止めを求め、現時点ではウィリアムズの要求が通っている状態だ。もちろん、相手は面白いと思っていない。


 とはいっても、ウィリアムズも永久に開発するなと言っているわけでは無い。

 鉱山が出来ればそこに人が住み着き、食事をする。人がいれば食べ物が必要である以上、農業を主産業とするウィリアムズ領は新たな市場を得られるわけだ。新たな産業の成立を歓迎することはあれ、禁止する意味は実はあまりない。

 鉱区所有者たちと無駄に対立しても意味は無いし、鉱毒の問題さえ解決できれば、鉱山開発は可能になる。そんなわけで私とウィリアムズ達の作った合同会社は現在、急ピッチで半魔術式排水・排気処理装置を開発しているところだ。


 しかし現在の所有者は鉱害など頭になく、ただちに開発させるよう求めてトラブルを引き起こしている。

 私達の世界の過ちをこちらで繰り返す必要はないのだ、と何度も説明してはいるのだが、目先の資金繰りの悪さもあって聞く耳を持っていない。

 所有者の財政状況は年々悪化しているから、早々に金にしたいのではあるだろうが。これが何か事業での財政状況悪化であれば融資も可能なのだが、本人や一族の放埓ほうらつが原因での赤字の累積となると、金の貸しようもないのが困ったところである。


「外国人と鉱山の買い取り交渉が進行中だった」

「買い取りの相手は?」

「エガント商会が仲介してるけど、マランティの貴族」


 ここでもエガント商会か。

 マランティの政商とつながりがあると判明しているから、不思議がるようなものではないが。


「マランティのウィダス鉱山は銀産出量が減ってきてるから、押さえたかったようだよ」

「ウィダスがねえ」


 豊かな銅鉱脈と、特殊な鉱石を算出することで知られた有名鉱山だった。

 たしかに開発を差し止めている鉱山も、銅と銀が出る質の良い鉱脈であることは調査で判明している。ウィダス鉱山の代替になるかどうかは不明だが、収益を考えれば同じくらい期待はできるだろう。


「あと、遊水地を作る計画も勝手に立ててたよ」

「なるほどな、すぐ開発したいならちょっと土地をくすねて遊水地でも作って、義理を果たしたことにしたいわけだ」


 鉱毒予防法と国土測量法の二つを改悪できていれば、その杜撰な対応も通っただろう。鉱山を売り払う計画まで含めて改正法案を出したというわけか。


「そんなところ。もちろん、他の鉱山の開発計画もあるんだろうけど」


 伝聞形で言っているが、こうして言葉にしているという事は、情報は得ているのだろう。今は予防法の絡みで開発がストップしている鉱山なら、国内にいくつかあるのだし。


「鉱山の外国への売却は禁止されてるから、ここはこちらで対処するよ」

「そうしてくれ。私は自爆テロ犯以外に関わる気はないぞ」


 ファラルが片付いた以上、私が直接関与するべきは、処刑の邪魔を企てた者たちのみだ。


「判ってるよ。ただその自爆テロ犯一味が、密輸事件と関わってた可能性が出てきたから、一応知らせとこうと思って」

「私の仕事が増えないことを祈るか」


 まったくげんなりするしか無い話だった。

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