第65話

 ウィリアムズの「ピクニック」はもちろん、銃で武装した騎兵が敵拠点に突っ込んでどんちゃん騒ぎをする、実に荒っぽい代物だった。


 馬に乗れない私が、騎兵の行動に直接参加できるわけもない。無人機を出して航空支援である。

 そして夜陰に乗じて接近した砲兵隊の初弾が撃ち込まれたのは、払暁ふつぎょうのことだった。


「弾着確認、位置送る」


 砲兵将校も観測してはいるが、無人機からの観測結果も伝達する。弾は昔の先込め式大砲よりも遥かに高い精度で、丘の上にある見張り台に穴を開けていた。


『弾着位置、確認した。射角修正上方3度、修正射準備!』

『騎兵113小隊、突入準備よし』

『修正射、発射!』


 騎兵が準備を整える通信が飛び交う中、砲兵隊は冷静に数門の砲を使って修正射を行っていた。

 ウィリアムズの部隊には、原始的な無線通信機が配備されている。今回は私と各部隊、それにウィリアムズをつなぐ魔力通信も補助的に導入してみたのだが、普段から無線通信に慣れている連中だけあって、スムーズに運用できているようだった。


『攻撃準備射撃、用意!』


 砲兵隊の静かな緊張が、画面越しにも伝わってきていた。


『攻撃準備射撃、開始!』


 砲兵将校が鋭く命じる声が、始まりを告げた。


 静かな朝が、砲の奏でる轟音で終わりを告げる。丘の集落に密かに接近していた騎兵隊が、ときの声と共に斜面を駆け上がった。

 見張り台のある屋敷の門から、数人が慌てた様子で銃を持って走り出してきたが、騎兵隊にあっけなく倒されていた。


 ウィリアムズの部下が暴れている最中に、無人機の一つが砦の窓から鏡の反射を使った通信を試みた男を魔力弾で気絶させて確保をはかる。更には脱出を試みた数名を発見、伝令である可能性を考えて爆撃した。

 爆風で負傷しなかった者も、馬から放り出されたところで魔力弾を使えば一丁上がりだ。


 あとは事前の打ち合わせどおり、砲兵隊の突撃支援射撃が届かない工作員の立てこもる建築物に、魔力弾を撃ち込み続けるだけだ。こちらは私自身がコントローラーを握る必要すらない、事前にプログラムしたとおりの自動作業だった。

 ウィリアムズは突入部隊の他に包囲部隊も用意した上で「パーティー」を開いているのだから、私ばかりが働く必要もない。地味な支援に徹すること数時間で、砦は占拠された。


『負傷者の有無は判るか、ケニー』


 こちらが中継した画像を厳しい表情で見ていたウィリアムズがまず尋ねたのは、部下の安否だった。


「こちらからでは、突入部隊の全容は把握できないな。わかる範囲では死者はいない」

『わかった、すまんな無理な質問で』

「気になってるんだから仕方ない。ところで、通信相手の見当はつくか」


 無線通信機はウィリアムズが持つ機密の一つで、まだ普及段階に至っていないから、敵が光を使うのは想定内である。

 鏡を使った原始的な光通信ではあるが、晴天の日の視界内なら通信可能だ。こちらでも遮蔽物が無ければ約4km超、塔の上からであれば約20㎞が通信可能範囲になるため、即時性のある遠距離通信の一つに数えて良い。

 とはいえ通常光を鏡で反射させるだけのものだから、塔を注視する者がいれば通信がバレてしまう。第三者に見られる危険を犯してまで誰と通信しようとしていたのか、そこは気になるところだ。


『部下を1部隊、疑わしい施設に向けてある』

「支援は必要か」

『状況の確認だけ頼めるか』

「場所を教えてくれ」

『グレーヴス村の教会だ。通信の中継地点になっている可能性が高い』


 ウィリアムズの作成した詳細地図は当然、軍事機密扱いだが、私の手元には届けられている。

 地図上で座標を確認して、観測機を転送。教会の入り口で、神官と揉めている騎兵将校がいた。

 画像はウィリアムズの手元にも共有しておく。


『もう少し上から、周りを見ることは出来るか?』

「もちろん出来る。……これでどうだ」


 機体を上昇させ、ゆっくりと360度水平回転させる。


『いた』


 広がる農地の中の一本道を駆けていく騎馬を認めて、ウィリアムズが言った。


「確保するか?」


 ウィリアムズの命令は無線で伝わっても、あの騎馬を追いかけるには時間がかかる。これは私がやったほうが早いだろう。


『頼む。奴がればそれで十分だ』

「馬は殺処分になるかもしれんぞ」


 転んで骨折した馬は、場合によっては殺処分だ。


『馬はかわいそうだ、傷つけずにおけないか』


 悪党を黙らせるのは平気でも馬は傷つけたくないのが、いかにもウィリアムズらしい話である。


「じゃあ落とすか。首を折らなきゃ良いが」


 観測機はそのまま追跡させ、遠隔操作型無人攻撃機を追加転送した。

 残念ながら私の技術では今の所、完全自律型攻撃機は作れていない。事前計画が立てられない今回のような場合はどうしても、人間による操作が必要だった。

 馬と速度を同調させながら斜め前方に回り込み、騎手の腹に魔力弾を撃ち込む。姿勢を崩したところでやや弱めの射撃を加え、鞍から落とした。


『あとはこちらで回収する』

「調べた結果は教えてくれ」

『もちろんだ、また借りを作ったな』

「後で利子を付けて請求する」

『恐ろしい事を言うじゃないか。ガタガタ震えて待つことにしよう』


 HAHAHA、とアメコミ風に表現したくなるような笑い声を上げるウィリアムズに思わず苦笑いしてから、私は回線を切った。

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