第64話

『なるほど、いい知らせが3つほどあったってことだな』


 譲ってくれた新商品サンプルへの反応と現在の状況について話すと、ウィリアムズはそうのたまった。


「なぜに3つ」


 一つ目はトマソンに対するサプライズの事である。二つ目は、ウィリアムズも色々対立している貴族院が今後苦労するという事だろうか。

 三つ目が意味不明だ。


『おまえさんが拗ねてる様子を見られたからさ、ケニー』


 テキサス男ウィリアムズはあいかわらずだった。

 いやまあ、前回話してから二週間も経ってないんだから、変わるはずもないんだが。


「そんなの見て、何が良いんだよ」

『俺が楽しいじゃないか?』


 まったく良い性格をしている。


「お楽しみが提供できたなら、そいつは何よりだよ。で、残りのうちもう一つはなんだ?」

『パーティーを開く理由が出来た』


 画面の向こうで、ウィリアムズが好戦的な騎兵隊長の顔に戻っていた。


 ウィリアムズが五体満足で生き残れた理由のひとつに、この好戦的な性格がある。

 愛馬を散歩中に召喚らちされたウィリアムズは、召喚直後ににショットガンをぶっ放したことで、私のような傷を負わされる難を逃れている。

 ありていに言うと、召喚直後に害を加えようとした者たちを、ウィリアムズが射殺した。

 もちろん、正当防衛である。

 とっさの思い切りの良さと攻撃性の高さはこの場合、美点であるだろう。実際、特に理由なく戦いを避けたがる者は我が身を守ることもかなわず、長生きしなかったのだし。


「貴族院の件か」

『ああ、元部下からも情報が来た。例の一派には後悔させてやる必要があるな?』


 そして私が何を言うまでもなく、方針決定はすでに行われているようだった。


後悔させてやって構わないと思うぞ」


 先日の、処刑の際の騒ぎばかりが理由ではない。

 貴族院は最近も、いくつかの法改正案で揉めている。

 改悪とも言うべき法案はかろうじて否決されているが、かつて法の制定のために駆け回って活動したのはウィリアムズである。苦労の結果を骨抜きにされそうになって腹を立てていたところで、全くおかしくない。

 例の一派、とはその法改正案を提出した派閥のことで、自爆騒ぎを起こしたタゴス卿とは親しく接していた事が判明していた。


『奴らにお祈りの時間を教えてやらなきゃいかんな?』


 ウィリアムズは画面の向こうで椅子にだらしなくかけて、腹の上で両手を組み、口元に微笑みを浮かべているが、目元は全く笑っていない。

 陽気な農場主の顔は、もはやどこにもない。

 どうやら本気のようだった。


 それも仕方ない話ではあるだろう。


 なにしろ今回、取り沙汰された法律は鉱毒予防法と国土測量法の2つ。

 鉱毒予防法は、鉱山開発の際は鉱山所有者に汚染予防義務を課すというもので、今回は事実上の廃止が目論まれていた。

 そんな改正案を通してしまえば全国規模で鉱害が発生するのは目に見えている。領地上流の鉱山から重金属で汚染された水を流されたら農産物が汚染されるウィリアムズにとっても、鉱毒予防法の廃止は死活問題になる。


 もう一つの国土測量法のほうだが、これは測量を国の責任で公平に行うと定めている。しかし今回の改悪案では、測量を各領主の裁量のもとに行うよう変更するとなっており、可決されれば不正の抜け道だらけになるところだった。不正な地図を作られることはつまり、不正確な地図による境界問題の発生を意味しているから、ウィリアムズにとってこちらもありがたくないだろう。


 そこまでは察していたが、聞いてみると更にトラブルの種があった。


『実は、うちの若いのが襲撃されてな』

「若いの?」

『陸軍測量部に貸し出してる、測量技師だ。連中に雇われた破落戸ごろつきに襲われたんでな、礼をしないわけにいかない』


 どうやら相手が実力行使に出たようだった。

 部下を見捨てないことでも知られたウィリアムズ相手に、これは悪手だ。


 本格的にだろう。


「手伝えることがありそうなら、教えてくれ」

『ピクニックは三日後だ』


 にやりと笑ったウィリアムズは、西部劇の悪党さながらの悪い笑顔だった。

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