第62話
「こちらでも把握できる動きはございませんわ、小父様。ここ最近はむしろ、諸外国勢がおとなしくなっている様子すらございますわね」
エーリャ王女のあとを引き取って、ティファちゃんがそう続けた。
「商会は派手だったが」
「ええ、エガント商会はあちこちに手を回しておりますわ。彼らの背後関係は要注意ですわね」
「それで、そちらについて調査の成果は?」
「それが、まだですの。マランティ貴族とのつながりも、ガレン亡命貴族とのつながりもあるにはあるのですけれど、ここ三ヶ月ほどはすっかり遠ざかられているようですし。あとで王女殿下にお手紙差し上げますわ」
お茶会で知り合った婦人同士が交流を持つのは自然なことだし、ティファちゃんが
場のセッティングがなければ、あからさまに怪しい交流になるが。
「ええ、お願いしますわ。商会の外商の愚痴かしら?」
「それも含めて構いませんこと?」
「もちろんですわ、期待しておりましてよ」
これなら、あとは勝手に進めてくれるだろう。
「しかし上流階級が手を引き始めている時に、商会もずいぶん性急に動いたもんだな」
このまま失敗すると、下手をすれば商会だけが自滅する。
「開発費用の回収を焦っている可能性は?」
これはトマソン。
「あれだけの魔石細工を準備するなら、初期投資も馬鹿にならないよ」
「ああ、それはあるな。しかし投資の読み間違いとは、大手商会には珍しい」
「それなんだけどね。たぶん、相手にとっての番狂わせは寺井なんだよ」
のんびり口を挟んだのは、高橋だった。
「どういうことだ?」
「最初は、王城内で王女に召喚術をやらせることが目的だったんじゃないかな。召喚される相手は、どんな人間でも良かったんだ」
「仮にも王族が、協定を破るようでは大問題ですものね」
エーリャ王女が頷いていた。
「愚かな姪を
そりゃそうだ。
もともと召喚術でトラブルを引き起こした国である、再度やらかせば諸外国も黙ってはいまい。被害者連絡会の本部を
「その隙にごたごたを引き起こす気だったと?」
「その可能性はございましょう?」
「まあ、無いとはいえないな」
「ところが、そこで再召喚されたのが寺井だったわけ。まあ対外的には寺井が召喚を妨害したことになってるけど、魔導卿が登場したのは同じだね。これで諸外国が介入を手控えた」
「母も素早く対応しましたし、魔導卿も即座に召喚犯罪の捜査に取り掛かってくださいましたから、諸国が口を挟む隙はほぼ、ございませんでした」
「ねじ込んでくる国の一つもあるかと思ったんだがね」
警戒はしていたが、幸いにも誰も文句を言わなかったので何もしていない。
「商会もそこが狙いだっただろうね。バーラン王家が騒動になった隙に、何らかの行動を起こす予定だったんだろうけど、寺井がいたんじゃ騒ぎは起きないわけ」
「私が上手く収められるという保証はないんだがなあ」
少し首をかしげると、
「卿の『狩り』の邪魔をして、卿を怒らせたい者はおりませんわ」
エーリャ王女が言うのに、全員が頷いた。
「……私はデウス・エクス・マキナか?」
出てきたら問題が解決しました、という奴だろうか。なんだかやるせない。仕事は増えまくったというのに。
「むしろ大魔神。最後に出てきてわーっと暴れて全部ぶち壊すやつ」
高橋が余計な茶々を入れてきた。
「それはあれか、トラブルは全部力づくで黙らせて、余波の後始末を高橋に丸投げしろという意味にとって良いか?」
大魔神だと言うなら、そのくらいさせてもらわないと割に合わない気がするんだが。
「国家予算を余計に使わないようにしてくれれば、それでもいいよ。実務は若い人に投げるし」
高級官僚の腹黒は、こんな時にも金勘定を忘れていなかった。
「だから相手にとっては不幸だけど、バーランにとっては幸運だったわけ。色々と後手に回ってた事が判明したから、後始末は大変だけどね」
「……私が予定をやりくりしてこっちで仕事する意味、あったのか?」
いやまあ、ファラルは片付ける必要があったし、その協力者についても処分を決めるのは重要ではあったが。
「僕らにとっては大いにあるよ。というか寺井があっちこっち首突っ込んでくれたから、初めて判ったことも多いでしょ」
「それはそうだがね、私が出てくる意味、あったのか」
「ございましたわよ?」
デーリャ夫人が気を使ってくれた。
「諸々に気が付かないまま事態が進行していたら、マランティと我が国で小競り合い。争いに気を取られたマランティ国内で監視の目が緩んで、王政復古派が動き出して共和国で内乱
さらっと最悪のシナリオを口にしたのはガディス卿。
「我が国が当て馬にされるような醜態を晒さずに済んで、よろしゅうございましたわ」
これはエーリャ王女だった。
とはいえ、
「魔石細工の試験場にはされてたようだが?」
そこは指摘しておく必要があるだろう。異常流入は今後も警戒する必要がある。
「それに、台本の作者が誰か解ってないよ」
トマソンが慎重に口を挟んできた。
「そこが一番肝心だな。とはいえ、私が動いてどうにか出来る段階じゃない」
権限も何もない引退老人が口を挟む場面じゃあないだろう。
「特別調査室も閉鎖に向けて動いてる。もう延長はないぞ」
「それは存じております」
ガディス卿も納得はしているようでなによりだった。
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