第8話

 挨拶に来た者への対応を終わらせた頃には晩餐ばんさんへの招待状が何通か来ていたが、すべてに断りの返事を返しておいた。


 こちらでは偏屈じじいで通してきたから、今更いまさらこれで角が立つようなこともない。そもそもサエラの招待すら断っているので、表だって文句を言えるものはいないだろう。女王陛下をさしおいて、自分の招待状を受け取れと言える者はいない。


 それに招待状を送ってよこした家にしても、いきなりの事とて十分な準備もできてないだろうから、各家の女主人たちは断られてむしろ安心したくらいじゃなかろうか。


 そんなことを考えつつ、サエラが手配した夕食に手を付けながら、やるべき作業に入る。


 まず必要なのが、今回使用された召喚術の痕跡こんせきの記録と解析。エリーリャは魔道具を使って召喚術を起動していたから、他にも道具が作られている可能性を考える必要がある。大量生産できるようなものではないが、今回限りの騒動で済むと思わない方が良い。


 そうなると今後に備えるためにも、魔術的な記録をきちんととっておいて、あとから比較可能な情報を残しておく必要がある。


 魔術の痕跡は放っておけば薄れて消えてしまうものだから、急いで記録する必要があるし、警備システムのログもバックアップしておいた方が良いだろう。

 時々こっそりメンテナンスしていた警備システムはきちんと稼働しているから、作業自体はそう難しいものでもない。


 詳細な解析は設備が無いとできないので、データをまとめたら作業終了。メモリは警備システムの隅を借りておく。

 作業が終わったところで、今日は休むことにした。


──────────


 こちらには毎日風呂に入る習慣というものはないから、寝る支度と言っても顔を洗って着替えるだけである。


 汚れた水の始末をした侍従を下がらせ、昔からの習慣通り部屋全体の警備を強化しておく。文字通り、寝ていても使える防御魔法を巡らせるだけなので負担もほぼ無い、安上がりな方法だ。


 奥の間の内装は昔とほぼ変わりないが、仮眠用(公的にはそういう扱いだ)の寝台だけは、昔と異なっていた。

 通常の寝台に、羽枕がいくつか。ごくありきたりの貴族用ベッドになっていた。


「……ま、歩いて見せたんだから、治療したことくらい判るか」


 昔は、召喚直後に折られて変形が残った足のせいで、痛みに悩まされた。寝ている間も痛みが少なくなるよう、足の位置を保つための羊毛入りクッションが必要だったものだ。


 帰国後に治療したおかげで、今は痛みもなく過ごせているが。

 羽毛入りの軽い上掛けに潜り込むと、ランプを消して、寝ることにした。

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