第3話
関係各位にはまったくお気の毒としか言いようがないが、同行を求められて赴いた先では騒動が始まっていた。
主犯の王女への対応も面倒なら、私の身元確認も面倒なので、担当者は貧乏くじを引いたとしか言いようがない。おまけに
「よりによって、召喚魔法とは……」
目の前でうめく警備部隊の将校には同情するしかない。
「上に報告しましたので、現在は指示を待っております。卿にはご面倒をおかけいたしますが、こちらでお待ちいただければと」
「構わない。君も災難だったな」
私があてがわれた部屋は、警備部隊の客間の一つだった。
尋問用の部屋ではないことは、大きな窓があることからもよく判る。
ついでに言うと、私の前にあるテーブルには従卒がいれたお茶と砂糖菓子があり、私が覚えている限りでは、これは魔術師をもてなす時の礼儀通りだった。
魔術師の振るう力の源は、本人の体力だ。空腹では魔術行使がうまくいかないこともしばしばある。もてなしの席に効率よくカロリーが取れる砂糖菓子を出すのは、魔術師に対して『あなたの魔術を制限しません』の意思表示になるというわけだ。
今では古い礼儀かもしれないが。
「お気遣いありがとうございます」
この将校が同席しているのは、私からの聞き取り調査と私の監視を兼ねている。ついでに言うと、私が申告通りの身分だった場合に粗相があってはならないから、という事もあるだろうが。
そもそも召喚被害者を丁重に扱ったというポーズのためには、彼はここに居ざるを得ない。異世界召喚はそれだけ大ごとになる犯罪だ。
「それにしても、今どき異世界召喚とはなあ」
「時代錯誤な犯罪ではありますが」
苦い顔になるのは無理もない。
バーラン王国はかつて、召喚術の
あろうことか国王主導で行われていた召喚だ。呼ばれる相手に同意を得ることなく強制的に招き寄せ、当時の国王だったラハド五世の役に立つよう強要していたのだが、当初はこの世界の中で行われていたのである。当初の召喚術とはつまり、外国人を誘拐して強制労働を課す行為だったのだから、国際問題化したのは当然の成り行きだろう。
問題になったあと、ラハド五世は召喚術を取りやめるのではなく、異世界から人を
その結果、今度は異世界人を巻き込んで戦争が発生したというのが大まかな流れだ。
巻き込まれた一人としても、たいへん迷惑だったとしか言いようがない大騒動で、それを教訓に召喚術の使用は制限されたはずだった。
「失礼いたします」
必要なことを答え終わった後、ゆっくりとお茶を飲んでいると、貴人の侍従の服を着た青年が入ってきた。
「女王陛下より、魔導卿をご案内せよと申し付かりました」
その一言に、将校があからさまに安心した顔になっていたのが、印象的だった。
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