第2話
「動くな!」
お手本通りと言いたくなるような見事な統制を見せる警備兵だったが、室内の様子を見て、わずかな
そこで
「早くその男を捕らえて!」
と、私を指さしてすかさず叫んだ小娘は、なかなか根性があると言えるだろう。
この状況で、王族の自分が命令を叫ぶことの意味をよく理解している。通常であれば王城内での王族の命令だ、疑うことはしない。確実に相手を抑え込む方法になる。
が。
「早くしなさい!」
「失礼ですが殿下、違法魔術使用者に対する拘束魔術がかけられているのは、殿下です」
素早く口をはさんだのは、警備兵に同行してきた魔術兵だった。
そう。
対魔術警備目的で作ったシステムなんだから、違法魔術を使った奴をさっさと拘束する仕組みになっている。そうでもしなければ遁走されてしまうのが常だったから、そのへんの作りこみは手を抜いていない。
「なんですって!?」
この娘程度の力量では、自分の魔力が捻じ曲げられたことなど判らんだろうが。
「この兵どもは……」
転がっている
「殿下付の近衛か。おい、拘束しろ」
警備兵が二人一組で、倒れた筋肉
へたり込んでいた文官もいささか雑に立たせられ、後ろ手に手錠をかけられている。魔術兵は厳しい顔で床に描かれた魔法陣を眺め、
「使用後の召喚陣だ。違法魔術使用を確認した」
と警備兵の責任者に伝え、それから私の方を向いた。
「あー、えっと、被害者の方ですね。言葉は、判りますか」
服装が全く違うから、召喚されたのが私だとすぐ判ったのだろう。
「分かるから安心したまえ。召喚被害者連絡会会長、『魔導卿』の寺井だ」
私のこちらでの肩書である。
最初の異世界召喚で被害を被った後、しばらくこちらに滞在している間に作り上げた被害者連絡会の代表を務めていたから、引退して日本に帰るまではそれなりに名は知られていたのだが。
「えっ!」
魔術兵が驚きの声を上げた。
どうやら私の事を知っていたようである。これなら話は早いか。
「この娘が召喚術の実行犯、この男が
「……全員、生きておりますね。手加減して下さいましたか」
どうやら魔術兵は事態を正確に把握したらしい。
私がその気になれば、ここにいた全員を即座に
余計な雑音が増えそうなのでやらないが。
「そういうことになるな?」
「ご配慮、感謝します。この者たちについては」
「城内での事件だ。まず君たちに任せたいが、よろしいか?」
「は、ありがとうございます」
「あれは面倒だと思うが、押し付けてすまんな」
丁重にではあるが連行しようとする警備兵に向かって、小娘がきゃんきゃんと喚きたてているのに視線を向けて言うと、
「いえ、これも職務ですから」
と返しながら、どこかうんざりしたような表情になっていた。
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