異世界召喚被害者の会。【改訂版】

中崎実

被害者会会長、また呼び出される。

第1話 

 一時期流行った(そして最近は廃れつつあるらしい)のがいわゆる異世界召喚もののファンタジーだが、人生で何度もするべきものではない。


 そう腹の中でため息をつき、私は涙目で頭を押さえた若い娘と、いきり立ち剣を抜いて斬りかかろうとした筋肉馬鹿(複数)を見下ろした。


「まったく、いきなり斬りかかるとは何様のつもりかな」


 躾がなっていない、と言ってやったが、筋肉馬鹿は意識を飛ばしているから聞いちゃいないだろう。


「ぶ、無礼者!」


 一人だけ離れて立っていたため無傷だった痩せ型の男が、ようやく金切り声をあげた。


「いきなり呼び出して斬りかかって来るほうが、よほど無礼だろうが」

「身分というものをわきまえ」


 喚き始めた男は、私が数歩歩いて手にした杖を突きつければ沈黙した。

 筋肉ダルマが床にいくつ転がっているか、ようやく数え終わったらしい。文官にしては遅すぎる。


「それに、私をなんの身分もない平民だと思っているようだが……ここはバーラン王国のエウィラ城であっているね?」

「知っているならこの方の」

「発言は許可していないよ」


 杖の石突を鳩尾にねじ込み、黙らせた。

 なにしろ呼び出された直後に、呼び出した当人と思われる娘にはゲンコツ一発、娘の護衛連中は張り倒して「教育」を施した後である。今更、事実確認も怠り高飛車な口調で話し続ける文官を『指導』したところで、大した差はない。


「そんなにお喋りしたいなら、今はサエラ女王のご即位から何年かを教えてくれんものかな」

「……聞いて、どうする」

「質問は許可していない」


 やれやれ、物分かりの悪い拉致犯である。


「さて、こちらからも聞いておこうか。貴君の官、名は」

「なぜお前に答える必要がある」

「国際条約違反、バーラン王国法違反だからだ。召喚幇助ほうじょ犯の名を把握する必要がある」

「なっ」

「知らなかったとは言わせんぞ」


 相手の顎に杖の持ち手を押し付け、軽く魔力をぶつけて威圧すると、青い顔をして黙り込んだ。


「もう一度問う。貴君の官および名を名乗れ」

「そ、そんなものは」


 こんなのは型通りのやり取りに過ぎないのだが、それを知らないとはやはり文官か。


「どこの所属の者だ」


 答えなくても私は困らないのだが、一応は聞いておいてやった方がいいだろう。

 ここで協力的な態度をとれていたかどうかで、今後の処遇も少し変わる。少なくとも、絞首刑が銃殺刑に変わる程度には良くしてやってもよい。質問に答えたという実績くらい、作らせてやって良いだろう。


「答えられないのかね?」


 城内の警備システムへのアクセスを完了する。私が作ったシステムだ、話ながらでも操作することは十分可能だ。

 違法魔術の使用を知らせる警報が出ている事は確認できたから、あとは警備部隊がなだれ込んでくるのを待つだけで良い。こいつが今ここで答えなくとも、あとは警備部隊が働いてくれるだろう。


「何するのよ無礼者!」


 ようやく喋れるようになったらしき小娘が、床に座り込んだままでヒステリックに叫んだ。


「お前の話は後で聞く。黙っていろ、小娘」

「私を誰だと思っているの!」

「城内に住む身分なのに、召喚術が禁じられていることも知らない、馬鹿を極めた小娘と認識しているが?」

「不敬よ!王族にむかって!!」

「そうだこの方は」


 理解力のない者相手に言葉のやり取りをするのも面倒くさいので、二人に魔力をぶつけておく。

 ひ、と小さく悲鳴を上げて文官が足をもつれさせ、尻もちをついた。


「質問しているのは、私だよ」


 杖をおろしたところで、ドアをやぶって警備兵が突入してきた。

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