第3話

 ひらり、ひらり、と、淡いピンク色の花びらが暖かい風に乗って流れてくる。その流れてきた方へと足を進めていくと、川岸の桜の並木道に出た。春色の花は今が盛りで、その木の枝の先に毬のように花をつけている。

 そのまま並木道を横切り、一面初々しい緑色の丈の低い草が生えている土手に腰掛ける。目の前を流れる川は、太陽の光を反射してまるでダイヤモンドを水面に並べているかのようにキラキラと光りながら、ゆっくりと流れる。ポケットからスマホを取り出し。新規メッセージを確認する。

 新規メッセージ、0件。


「やっぱり、そうだよね」


 隆太あてのメッセージを開くと、最後に送った「今時間ある?」というメッセージは既読にすらなっていない。送ったのは三日前なのに。

 隆太に会って、さよならをちゃんと伝えたい。

 でも、その前にもう一言だけ言えたらいいな。

 地面に頭を付けて、空を見上げる。ふわふわと浮かぶ雲は手を伸ばしても届かない。私の手の遥か遠くで流れている。


「好きって言えたら、いいのにな」


 でもこの願いは叶わないだろう。今日も野球部は練習だ。このメッセージは隆太に届かないまま私は日本を去るのだろう。

 それは少しさみしいけれど、でも仕方ないってわかっている。それに伝えられたとして、もう何も出来ない。遥か遠くへ私は行くし、きっと隆太は私のことをそんなふうには見てくれていないだろう。

 ずっとわかっていたことなのに、改めて考えていると薄っすら視界が滲む。

 いつから好きになったのかなんて覚えていない。物心ついたときから隣にいて、誰よりも私の気持ちをわかってくれていた隆太のことを、気がついたら恋愛対象にしていた。なんでかなんて、自分でもよくわからない。

 授業を受けているときの真面目そうな隆太、泥だらけになりながら野球をしている隆太、楽しいことを見つけたときの笑った隆太、目を閉じればいろいろな隆太が瞼の裏で私に笑いかける。隆太のことを想うだけで、心臓がぎゅーっと痛くなる。

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