第4話

 ──ピロン


 メッセージが届いたと、スマホが知らせる。

 お願い。どうか、隆太からでありますように。

 両手が汗だらけで、スマホを落としそうになりながらメッセージを確認する。心臓がものすごい速さで動いて、口の中の水分が少なくなって、陸に上がった魚みたいな息の仕方で息をする。

 私の願いが通じたのか、メッセージは隆太からだった。


「見てくれたんだ」


 忙しい時間の合間でこのメッセージを見てくれたことが嬉しくて、飛び上がりそうになる。

 内容は一行だけだった。


「五分後、公園で」


 そのメッセージを口の中で復唱する。ああ、会えるんだ。最後に自分の口からちゃんと隆太に伝えられるんだ。

 どのように伝えよう、なんてところまで考える余裕はどこにもなかった。ただ、一秒も無駄にしたくなくて、少しでも早く、少しでも長く、話せますようにと心の底から思っていた。体の中の血が湧き上がるように熱くなって身体中を駆け回るから、顔が赤くなる。

 ぴょん、と、飛び起きて、大きく一つ深呼吸をする。

 アスファルトを蹴り、桜並木をまっすぐに進む。強い風がびゅうっと吹く。まるで背中を押すようだ。

 大丈夫、笑って全て伝えられそうだ。


 さよならと伝えるため、そのおまけにもう一言その前に伝えるため、私は待ち合わせ歩行園へと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さよならの前に、一言だけ 天野蒼空 @soranoiro-777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説