最後はかならず私が勝つ(後編)
「ねえ鍬原さん?あなたね、まだ十三歳でしょ?」
「もう十四歳です」
「あらそう?まあどっちでもいいけどね、中学二年生なのは同じでしょ?」
次の日、さっそく鍬原にすり寄ってやった。
クラスの連中はまた何かやる気かよとか不審そうな顔をしてるけど、まったくあきれる能天気ぶりね。これは正義なのよ、せ・い・ぎ。
「あとで体育館裏でお話ししましょう?」
「はい」
あーあー、ずいぶんと声張っちゃって、もう気を張らなくてもいいのになー。
そして体育館裏の草むらで、私たちはこの女を囲んだ。
「これわかる?昨日の奴」
私がスマホを見せると、鍬原がものすごーくがっかりした表情になった。びっくりじゃなかったのはちょっと意外だったけど、まあ同じよねどっちにしても。
「わかるでしょ、私たち友達なんだから。必要なのよね、学問ノススメが」
「学問ノススメ?」
「わかってるでしょ、これネットに放り込まれたくなかったら一万円持って来いっての」
スマホの背中を叩きながら、私は喜びの中にいた。
鍬原が唇をかみしめながら二枚の五千円札を出す姿と来たら、それこそスマホに撮って壁紙にしたいぐらいだった。
「まあ、私は友達だからね、と・も・だ・ちだから。ねえ真理」
「そうそう、私と幸子とあなたは永遠に友だちだからね!」
ああ気持ちいい、本当に気持ちいい。
この女から金をせびり取ってやった事が、どんなに気持ちいいか。
しかしああも簡単にボロを出してくれるなんて、本当にバカなんだから。正々堂々と、なぶる事の出来るボロを。
「ねえ真理」
「何、幸子」
「今度さ、遠くの店行かない?あそこのスイーツ最高なの」
「そうそう~ああ、他の子三人ほど誘わない?」
せっかく一万円も手に入れたのだ。楽しい事に使わない訳には行かない。その予定を考えるだけでテンションが上がる。
「にしても小野川さん、木藤さん、今回成績がいいですね」
「ああいえ、たまたまですよ」
「たまたまにしないようにしてくださいね、鍬原さんみたいに」
そのおかげか知らないけど、テストの成績も上がった。本当に気持ちいい。それに引き換えあの女ったら、この世の終わりみたいな顔しちゃって、ああ本当に気持ちいい。
「ねえ鍬原さん、あの事だけど」
「あ、はい、その……」
「あらやだそんなにおびえちゃって、私たち友だちでしょ?」
そのくせ勉強だけは意固地になっちゃってるんだから。
何なの、中間テスト1位って。無駄な時間は使っちゃダメでしょ、ねえ。
「そ、その話は、えっと明後日にあそこのビルで……」
「さすが、話が分かるんだから~」
金曜日にもう五千円ほどせしめて、そして日曜日に親しくなった子たちと一緒にスイーツを食べに行く。もちろんインスタ映えしまくりの。
で、金曜日の夕方。
あの駐車場に、妙に神妙そうな顔をしながらあいつはやって来た。金づるの分際で何を威張っちゃってるんだか、あー可愛いねえ、実に可愛いねえ。
「鍬原さん、ここでまさかあんな事してたなんてねえ、私たち驚きー」
「ですから……具体的に……」
「言っちゃっていいの?じゃあ言うけど、あやしいおっさんに何渡してたの~?同じの欲しいんだけどな~、友だちでしょ~?」
二人の優しいお友だちは親しげに話し、平たい物体を待っている彼女を待っている。うーん、本当に快感。
「ちょっと何チラチラしてるの、ねえ?」
「ああごめんなさいごめんなさい、では、はい!」
まったく目線を逸らしちゃって、往生際が悪い子ねえ。
「五郎丸さんには、どうか……」
「五郎丸って、あんた私たちのLINE仲間とどういう関係?まったく、それまで横取りしようなんて、ホーント欲の皮が突っ張ってるんだから」
って言うかなんで五郎丸さんの事を知ってるわけ?あんなオシャレな子とこんなふざけた女に何の接点があるっての?まさかとは思うけどラグビー選手の名前なんか出して一体どういうつもりだか。
あんたはさっさと金を出せばいいのよ!
「……はい」
ああやれやれ、ったく往生際が悪いんだから……ってなにこれ、SDカードじゃない!
「これ、だいたい四千円ぐらいだから……」
真面目に物を言いなさいよ!確かにSDカードはありがたいけど、そうじゃなくて、って真理何やってるの!
「何か急にLINE入って来たんだけど、五郎丸さんここにいるって」
五郎丸「○○駐車場なう」
そんな、あの人って確かここから電車で五駅って言ってたけど、大人だとしても今日は金曜日よ?もしかしてニート?
ったく、こんな至福の時にまったくどいつもこいつも空気の読めない真似ばかりするなと無視しようとすると、右手に真っ赤なスマホ、左手に緑色のスマホを持ったおっさんが駐車場の入り口に現れた。そう、鍬原が密会してたあのおっさん!
「何やってるのかな君たちー」
「おじさんには関係ないでしょ。って言うかこの女とどういう関係なの!」
「俺まだ二十八なんだけどなー、って言うか君ら超絶大ピンチなんだけどなー」
そのおっさんは真っ赤なスマホを胸ポケットに入れると右手で私に一枚の名刺を差し出し、そして左手のスマホを私に差し出して来る。
————浅野探偵事務所所長、浅野治郎……!?
「もう遅いよ、これまでの捜査で君たちの事は全部わかってるから。握り潰そうとか言う考えは捨てた方がいいよ、もう君らのお父さんの会社やその取引先にもぜんぶデータ送っちゃった、って言うか現在進行形で送っちゃってるし」
「まさか五郎丸って!」
「まあそういう事。ああいっとくけどこの緑のスマホ、ただいま実況中継やってるから。さて四日前のがこれでね」
真っ赤なスマホの電源をしまうと懐からボイスレコーダーを取り出す。
スイッチが押され、私たちのゆすりがネット上に中継される。
…………ああ、死にたい。
あの見るだけで胃液が逆流するような笑顔。もう二度と頭から消えそうにない笑顔に打ちのめされる事が決まった私たちは、ひたすらに泣いた。
「何か言いなさいよ……!」
「なんでそんな事しちゃったの…………?」
「そのもっともらしい顔をやめなさい……!私の靴をなめなさいよ……!」
ああむかつく!どうして素直に怒ろうとしないのよ、このぶりぶりぶりっこ女!!
最後はかならず私が勝つ @wizard-T
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