最後はかならず私が勝つ

@wizard-T

最後はかならず私が勝つ(前編)(10月5日誤字訂正)

 今日は、吉日だと思った。




 いつもむかつく鍬原が、あんなとんでもない姿を見せてくれたんだから。




 あんな冴えないおっさんに何かを渡している姿を。










 鍬原宇宙って女、この小野川幸子と同じクラスだって事どころか、同じ中二だって事すら嫌になる女。

 いつもいい子ぶってクラスの男に色目使って、それでチヤホヤされてる。


 ったく、この女のせいで私の学園生活真っ暗。何をしても楽しくない。


 しかもこの学校小中高一貫だから、下手すりゃあと5年間付き合わなきゃならない。

 もちろん親にも相談したけど、世の中誰とでも気が合う物じゃないのよでおしまい。


 ご飯もおいしくない、勉強も身が入らない、そして何を着ても笑えない。



 勉強には付いていくのがやっとで、成績は上がらない。こんな調子で高校に内部進学なんかしたらたぶん絶対に落ちこぼれになる。決してサボってるわけじゃないのに。


 ああ、さわやかな笑顔。実にむかつく笑顔。曇らしてやりたい笑顔。


「ねえ真理、あの女本当許せなくない?」

「あああの宇宙女ね、何よクラス中の男に見せつけて」

「本当ね、あの女がいると思うだけで頭が痛くなるわ!」


 私の青春は、木藤真理とグチりあう事だけで削れて行く。こんなのは嫌だった。


 何とかして、あの女に痛い目を見せてやりたかった。




「おはよう」

「聞こえない!」

「おはようございまーす!」

「だから聞こえないって言ってるでしょ!」


 あたふたしている顔を見ると、楽しくなる。耳でも悪いのとか言われるけど、実際悪いんだからしょうがない、そしてその原因を取り除こうとしてるんだから。



「ったくもう鍬原さんは掃除が下手くそだから……こんなんでよく嫁の貰い手があるだなんて浮かれられるんだからね……本当に幸せなんだから」

「そうよねー、ここちょっと曲がってるわよ」


 掃除当番の時は二人していびってやる。そうするととても気持ちが良くなる。


「あ、あの、それはちょっとどうかと……」

「あーはいはい、私が悪うございましたね!まったく至らないクラスメイトのお世話ができるなんて私たち超ラッキー!」


 そこに割り込んで来る非モテの典型みたいなデブのせいで楽しみを邪魔された時には、鍬原とそのデブの頭に机を振り下ろしてやる図を考えながら動かしてやる。



「ちょっと調子に乗るんじゃないわよ」

「えっいつ?」

「最初からそうでしょ!」

「お前みっともねえぞ」

「あーあそうやってまーた男を捕まえるのね、はいはい魔性の女魔性の女!」


 それで、気取らない風を気取って浮かれまくっているのを見るにたえなくって少し親切心を起こして注意してやるといっつもこれ。




「ねえ鍬原さん、あなた変な噂が立ってるわよ」

「何?」

「あの高校の先輩たちからもモテてるあのサッカー部のエースまで食い荒らそうだなんて噂がね」


 それでもあまりに腹が立ったもんで、こんな事もしてやった。

 おお責められてる責められてる、ああ気持ちいい。


 真理を通じて流してやった噂のせいで、頭のお堅い委員長様から問い詰められている姿を見ると勉強を頑張る気になれる。


「まあ、あの先輩に惚れないのは難しいですけどね、って言うか鍬原さんはそんなに手の早い人じゃありませんけど。むしろもう少し積極的になった方が、ああいう人は早い者勝ちですから」


 そしてすぐ萎えた。一体何故ここまで愛されるのか。わからない。全くわからない。




「二人とも、何があったのかわかりませんけどそんな事ばかりしないように!」

「はい……」


 あまりに腹が立ったので足を引っかけて転ばせてやり、担任に捕まり叱られた事もある。


 その時見えた純白のパンツ、その味も素っ気もない純白のそれが、ますます私の心を逆なでする。ああ、汚してやりたい!



「幸子……」

「何でもないよ……」


 パパもママも当てにならない!私は真理と共に毎日ずーっとLINEで愚痴り合うばかり。それでもなおその最中にあの女が勝手に割り込んで来て、イライラがさらに加速する。



 そんな私をつなぎとめていたのは、「五郎丸」さんだった。


 ちょうどあの女を蹴倒した頃に真理の先輩の勧めで、真理を通じてその「五郎丸」さんとLINEのやり取りを始めた。

 真理が言うにはその人はどうやら高校の先輩の親類で、その人気者の先輩もものすごく頼りにしているらしい。そんな人なら大丈夫だと思った。



五郎丸「真理ちゃんからえらく不機嫌だって聞いたけど」

幸子「クラスに性根の腐った女がいてね、何やってもみんなに愛されて」

五郎丸「あーそう大変だね、パパはなんて」

真理「ダメダメ、一人ぐらい仲良くできない奴いて当たり前だって」

幸子「何とかへこましてやりたいのよ!」

五郎丸「気持ちはわかるよ」


 もしここで勉強しろとか言うんならLINEをブロックしてた。このまだあの女にほだされていないだろう存在を捕まえ、なんとしても味方に引き込まなければならない事を実感した。



 五郎丸「LINEって親見られるからね、電話番号教えようか?」



 と思って決意を固めたはたから、ずいぶんとあっさりと電話番号を教えてくれた。一応アルファベットの暗号ではあったけど簡単に解読できた。本当にちょろい人だと思う。


 その五郎丸さんって言う頼れる第三者に向かって、私たちはここぞとばかりにある事ない事ぶちまけてやった。

 鍬原宇宙と言う女が、いかにひどくてすさまじくて最低な女か、教えてやる。


 そうやって話していると本当に気持ちよくなり、何事にも集中できる気がする。


 と言ってもまだ、鍬原を泣かせたわけじゃなかった。


 弱みを握りたい。決定的なそれが欲しい。何とかしてはっきりとした形で追い詰めてやりたい。


幸子「ああ、何とかしてほしいなあ!」

五郎丸「土曜日昼間、○○ビル側の駐車場においで。そこで運命の出会いがあるよ。ああ、お友だちも一緒でね!」


 私は二つ返事でOKした。





 土曜日、私たちは五郎丸さんの言葉を頼りに駐車場へと向かった。


「五郎丸さんはこの辺りだって言ってたけど……」

「あの女、どこへ行く気かしら……」


 遠足よりずっと楽しい時間、こんなのは三年ぶりだった。お菓子屋さんなんかもどうでもいいぐらい楽しみだった。



 親類のおっさん、それも教師だったおっさんが三年前に自殺したせいでこちとら肩身が狭くってさ、そんな中であんなのほほんと生きてそうなあいつが恨めしくて仕方がなくってね!

 今の担任は、半年近く一緒にいるからわかるけどはっきり言って事なかれ主義の若い女。下手に熱血と言うか血の気の多かったらしいおっさんと比べりゃ実にやりやすい。



 なればこそ、こうして動いても大丈夫だって訳。




 そして、私たちが見たのが、駐車場で鍬原があやしいおっさんに何かを渡している後ろ姿だった。




 天にも昇るような気持ちを抑え込みながら私はこっそり写真を撮り、そのままそっと駆け出した。

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