第19話 帝国の遺産
「ここが私の家よ、まずはその子の様子を見ましょう。少しは医療の知識も持っているから」
「ありがとうございますソフィアさん、助かります」
「待っているだけというのも何だな。日も暮れてきたし、この村で一泊するなら村長に挨拶をしておきたいんだが」
ソフィアさんから村長の家の場所を教わり、ジローさんはそちらへ挨拶に。
残ったみんなでソフィアさんの家にお邪魔した。
外からは他のほったて小屋とさほど変わりはしなかったが、室内は綺麗に片付けられている。
でも小柄なメンバーが多いとはいえ、やや手狭だな。
俺から離れたがらないミュリエルをなだめながら、毛布から出してソフィアさんに診てもらう。
脈を取ったり触診したり口の中を見たり……と素人目には何を判断しているのか分からない。
でもミュリエルの口数が少なかった理由はすぐに分かった。
「あの緑色のがずっと口の中に残ってたなんてな」
「ミュリエルこっちおいで~コレを口に入れて、がらがらくちゅくちゅぺーってしてね」
「お手本するッス! がらがらがらぺー!」
「ぺ~っ」
「ミュリエル上手ッス!」
「えへ~」
ソフィアさんが口をすすごうとしてくれたが何故かミュリエルが嫌がり、代わりにミアがミュリエルを外に連れてうがいをさせている。
何気に子供の扱いが上手いな、あいつら。
「健康状態は問題無さそう……でも……」
「何か?」
「いえ、何か刺激の強い事が多かったのか疲れているんじゃないかしら? 隣に寝室があるから少し寝かせてあげると良いわ、ユーマさんは話を」
「交際について――」
「真面目な話よ」
俺もかなり真剣だったんだけど……。
ミアと見た目は若干癒やし系なタロにミュリエルを頼み、姿勢を正す。
この流れはどう考えてもミュリエルの体について、だろう。
「遺跡に入れる事は誰にも言わない方がいいわ、ミュリエルの事も」
「遺跡とミュリエルは――」
手で制される、ソフィアさんには確信があるんだろう。
ミュリエルがあの遺跡の中で見つかったという事の。
「あの子は普通の人間じゃない。数十人分の魔力が体に満ちているし、魔法を扱う素質も桁違いだわ。それにあなたも普通じゃないわね?」
「……どうして、そう思いました?」
父さん譲りの能力は、普通の手段では他人には詳細が分からないと聞いている。
でもソフィアさんの言う普通じゃないというのは、おそらく能力の事だ。
もう1つの方なら、別の言い方をするだろうし。
「こう見えて魔法や魔力の扱いには少し詳しいのよ、魔法使いの中でもね。あなたとあの子の間には普通では考えられない魔力の繋がりがあるわ」
「そこまで分かりますか」
能力の繋がりは魔力を介したものだ。
魔法使いなら魔力の流れを感じ取る事はできるが、ソフィアさんはそれよりも詳細な情報を感知しているのかもしれない。
「あの遺跡を作った帝国の勇者、その能力について僅かながら記録が残っているの。おそらくあなたと同質の能力よ、遺跡が開いたのはそのせいかもしれない」
「そういう記録は閲覧するのに相応の立場とかが必要なんじゃ? それはともかく、能力については言われなくても秘密にしますよ」
「中に入れない遺跡は価値の低い物として放置されているけれど、一応管理者が登録されるのよ。今は私がそう、かつてここにあったマダーニ所有の記録を閲覧する権限があるわ」
「あぁ、だから遺跡を見に来てたんですね?」
遺跡に異変がないかのチェックに来てたのか。
でも女性1人で村を出て森へなんて、不用心だな。
「えぇ、毎朝の日課だけれど……おかしな魔力を感じて目を覚ましたら、その……寝坊してて。コホン、話を戻しましょうあの子のことだったわね。帝国の勇者はその能力で、魔道具や……魔法生物を創っていたそうよ」
結構な距離があったはずなんだが、自分で言うようにソフィアさんは魔法使いとして飛び抜けて優秀なのかもしれない。
魔力を扱う才能が優れているほど、俺の能力が干渉しやすいらしいから。
しかし、魔法生物? ミュリエルがそうだと?
あの緑色の円筒形……他の筒には魔石が入ってたが……。
「体内に満ちた魔力、それにとても優れた魔法の素質。……あの子を利用すれば大きな魔法が使える、調べれば失われた魔法技術も取り戻せるかもしれない。その為に遺跡にいたんじゃないかしら――帝国の遺産として」
「ジローさんも言ってたけど、ミュリエルの出自を知られれば研究対象として連れて行かれる、と?」
「間違いなくね。場合によっては戦場に連れ出される事だって考えられるわ、個人的には好ましい事だとはとても思えない」
痛ましそうに顔を伏せて首を振る、優しい人なんだろう。
それに俺だって、そんな事態は招きたくない。
でも関連性の無い2人が、ミュリエルを見て全く同じ結論を出したという事はそうなる可能性が高いって事だろう。
ミュリエルと引き離された挙げ句、研究材料にされた上、戦場になんて――。
あんまりな未来を想像し、頭の中でドロドロとした感情が渦巻き出す。
――とそれを遮るように、ややのんきな声が隣の部屋から飛んできた。
「ねぇ~なんかミュリエルがいきなり凄く怖がりだしたんだけど。ユーマを呼んでるよ?」
「分かった、すみませんソフィアさん」
「えぇ行ってあげなさい」
ソフィアさんに促されて寝室に入らせてもらうと、ベッドの中で怯えるミュリエルがいた。
小さな手足を縮こまらせるその頬に手を添わせて撫でると、涙でいっぱいの瞳が俺を見上げてくる。
「どうしたのミュリエル? 何か怖いことでも思い出した?」
「おとうさまといっしょにいたい……」
俺に手を伸ばすミュリエルを抱き寄せてあやす。
娘どころか小さい子の相手をした経験すらほぼないのにな。
でも他に頼る者の無いこの子がお父様と呼ぶ以上、そう振る舞うよう努力したっていいだろう。
こういう時の為に見聞を広めるつもりだったんだが、本番が来た以上やるしかない。
この子のためには何が必要だ?
ミュリエルについて、ミュリエルと関連のある俺の能力について相談できる人だ。
今、すぐそばにいる稀有な人を逃すわけには行かない。
俺の幸せのためにも!
小さな手に掴まれている腕、そこに少しばかり爪が立った気がした。
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