第12話 傭兵団
「マズいな、傭兵団だ」
「マズいの?」
「かなりマズい」
「マズいッス!」
山道に入って1日歩き、そろそろ野営の準備を……という頃。
タロが「向こうからイヤな臭いするッス」と唐突に言葉を漏らした。
詳しく聞くと多数の人と革と鉄、それに時間が経っているのか少量の血の臭い。
どう考えても危険信号。
山道の両側は森になっているので、一旦そこに分け入って姿を隠して先へ進み、様子を伺った結果が先の全員の発言である。
そこには正面に牙を剥いた狼の旗印を掲げ、武装した集団の姿があったのだ。
両親いわく、町の外で出会う傭兵は強盗集団だと思え。
身包みを剥がれて放り出されるなら良い方で、最悪殺されて捨てられる。
手間の問題でそうそう無いが、証拠隠滅で埋められでもしようものなら死んだ事すら身内に伝わらない。
町の中でなら比較的大人しい暴漢、関わってはいけない存在のトップ5くらい。
「そういう存在だ。特に女性がいた場合は危険度が跳ね上がると思っても良い」
「うぇ~……」
「まあミアならさすがに大丈夫じゃないか?」
「いやいや、軽く言わないでよ! 変な趣味のヤツがいたらどうすんのよ!」
自分で言うのか。
でもミアが隠れたとしても、正面から通してくださ~いと出ていくのは危機感に欠ける。
「他の通行者を見かけないのをおかしいとは思っていたんだが、このせいか」
「傭兵団がいるって噂でもあったか? そりゃ1~2日なら様子みるだろうなあ」
「ここって国境でしょ? それを守ってるんじゃないの? 国に雇われて」
「内側と外側の関係上、傭兵を雇ってまで固めるとは思えないな。外側の防衛、内側の支援のどちらが欠けてもお互いに存亡の危機だ」
う~ん……じゃあ個人が雇って何か、人探しでもしてるとか?
まともな契約で動いてるなら一応、法を守る気もあるかな?
……訴える人間が全員死んでたら法的にも問題ないか。
昨日は色々とゴタゴタしてたし、今朝も予定より遅れるってんで慌てて街を出たのが失敗だったなあ……。
「見つからないように回り道をして行こう。足場も悪いし道に迷う可能性もある、かなり危険だが……」
「いや、止めた方が良いな。あいつら魔道具を持ってる、動物を支配して視覚なんかの感覚を共有する効果で今は……鳥が上から見てるな、近すぎて俺たちに注意を向けてないけど」
「何……? どうしてそんな事が分かる?」
なんでと言うと、これが父さん譲りの能力だから。
一定範囲内にある魔道具の存在を感知してネットワーク? を繋いで自分の体の一部のように操れる。
連中の持ってる魔道具と繋がって、どう使っているのかを調べた結果だ。
……でも特殊な能力を持ってるって事は秘密にしなさいと、最もキツく言われたふたつの内のひとつ。
「調べる魔道具を持ってるんだよ、ウチの家宝だからどこに持ってるかは秘密だ」
「なるほど、あのダンゴだったか……変わった魔道具を複数持っているから軽装だったのか?」
「そんなもんだ、でもここを乗り切れそうな物は無い。」
「ジロー様は騎士ッスよね? 見つかったら逃げながらズバーッ! って出来ないッスか?」
ズバーッと出来るなら逃げる必要なくない?
俺の疑問はともかく、ジローさんは苦笑しながら首を振る。
「前にも言ったが私は魔法戦力を期待されて推薦を受けたんだ、接近戦はアテにしないでくれ。……それとまだ見習いだ、様は必要ない」
「じゃジローはなんの魔法使えるの?」
「なんか凄い魔法使えないッスか、ジロー」
こいつら……。
「私が持っている魔法の素質は主に幻覚系、それに光と闇を操る系統だ」
「それってどっちの系統も姿を隠せるよね? 幻覚で周りの風景被せたり、透明になったりできるでしょ」
「詳しいな……さすがに妖精か。悪いが魔法も見習い、修行中だ。この人数を隠しながら移動すれば、間違いなく途中で体力が尽きる」
「魔法って結構不便ッスね~。ミアは何か凄いのできないッスか?」
「えっとね~一番凄いのだと、2倍の速さで動けるようになるよ」
ナニソレ、聞いたこと無い効果だぞ? 何系統だよ。
タロとジローさんも興味を引かれたらしい。
全員2倍速で動ければこの状況を突破するのも簡単じゃないか?
「それ凄いッス! それならボクでもあいつらやっつけられるッスよ!」
「かけてあげても良いけど10秒で効果切れて、速くなった人は凄く疲れるからね? 2回かけると気絶するくらい」
「無理ッス……全然時間足りないッス……」
見えてるだけでも10人はいるからな。
一応俺も魔法は使えるんだが、ジローさん以上に修行中だ。
おまけに魔道具を作る系統と土系統だし、この状況じゃ出番ないな。
「……これは一度出直した方が良くないかな?」
「安全を最優先するならそれが良いだろう。サイトであの傭兵団について確認を取る、その後雇い主なりと交渉して安全を確保して出直す、といった所か」
「めんどくさいけど、しょうがないね」
せっかくここまで出てきたが、命にはかえられない。
しゃがんだ姿勢のまま、少しずつ後ろに下がって距離を取る。
父さんに聞いた物語じゃこういう時、突然パキリッと音がなるパターンだ。
でも俺はそんなヘマはしないぜ!
不敵に笑いながら、みんなにも注意を促そうと隣を見た時だった。
……タロの前を一匹の蝶がヒラヒラと舞っている。
そいつはしばらく迷うような動きを見せた後、タロの鼻の上に舞い降りた。
「へっぷしッス」
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