第8話 準備完了!
「なんかこの金属の鎧ってすごく高くない? 革鎧でも十分硬いのに値段の差すごいよ?」
ミアが俺の着てる革鎧よりも分厚くて重そうな品を、手で感触を確かめながら近くの金属鎧と値段を見比べている。
確かにヘビーレザーとか言われるそれは、かなりの硬さを持っている。
でもさすがに金属鎧ほどじゃないが、値段差を見ればミアの言う事も分かる。
店内に吊るされている新品のヘビーレザーの値札には銀貨35枚と書かれてる。
一方ミアがぺしぺしと叩いている、鱗状の金属板を貼り合わせたスケイルメイルは銀貨75枚だ。
2倍以上の値段が付くほどの差がそこにあるのか? って事だな。
店の奥の方に飾ってあるプレートメイルに至っては、一番安いので金貨2枚、銀貨換算で200枚だし。
「素手であまり触ってくれるなよ。そのふたつを比べるなら2倍安全とまではいかんな」
「あ~知ってるよ、それボッタクリっていうヤツでしょ?」
物怖じとか口の聞き方ってもんを知らないな、この妖精⁉
怒るんじゃ? と思っておじさんを見たが、苦笑で済ませてくれている。
「値段は防御力よりも手間の問題だ。例えば……お前さんらがここに入ってくる時に食っていたパンは何で出来ている?」
「小麦粉ッス! 運ぶ仕事した事あるッス!」
肉球のある片手に槍を器用に持って構えながら、話に割って入るタロ。
ホントのところは安いのを買ったから小麦粉以外が大部分だと思うし、おじさんも多分気がついてるだろうが重要な部分じゃなかったんだろう。
タロが上げた片手を下げさせながら、頷いてみせている。
「そう、このサイトの街や周辺の村で収穫した小麦が原料だな。じゃあその金属鎧の原料はなんだ?」
「そりゃ鉄でしょ?」
「そうだ、その原材料は鉄鉱石。この近くじゃ掘ってないし精錬までやっとる鉱山も少ない。鉱山町から運んでくるだけでも一苦労だ。おまけに精錬には大量の燃料、薪が必要でこれも街の近くで確保するのは難しい」
その辺はウチの両親も気を使ってたな。
薪を始めとして木材は必要だが、無差別に伐採してればいずれ家の周りは丸裸になってしまう。
森から得られる資源は多い、街の近くで木を切ろうとすればそこから利益を得ている人達と確実に揉める事になるだろう。
「鉱山で命がけで鉄を掘る連中、それを運ぶ連中、燃料を作って運ぶ連中に……精錬して鎧を作るワシらと、関わる人間の多さが値段に反映されとる。鉄は高い、旅先で槍や矢が折れても穂先や鏃は回収しておくことだ」
「う~ん……その鉱山町に引っ越してくれれば安く作って貰えるって事ね?」
「お安くなるッスか!」
「この生まれた街から追放される事があれば、考えてやっても良いがな」
色んな人の仕事の結晶だって話を聞いてたか、そこの二人。
愛想が良くない人かと思ったが、着る物に関してミアなりにこだわりと興味があるらしく、色々と質問と説明を結構楽しそうにやっている。
話に参加していないジローさんは奥のプレートメイルに「いつかは……」と熱い視線を向けていた。
アレ絶対重いだろ……俺が買い換えるなら、値段的にも重量的にもヘビーレザーくらいまでだなあ。
鍛冶屋を出た後にもふたつ、みっつ店に寄って準備を整えた俺たち。
タロに服と靴を買い、古着屋でもうちょっと! と服を漁ろうとするミアを引き離し、食料品や雑貨を揃える。
手早く終えたつもりではあるが、予定よりは遅れてジローさんがため息をついていた。
その後ろで何やら声がするんだが――。
「あのコボルトだ! あのクソを……ぎゃあ⁉」
「なんか聞いた事ある声ッス」
「ほっとこう、もうお前には関係ない事だよタロ」
さらばだ、元ごすじん。
悪態ついたら電撃が流れるなんて、人格の矯正にはちょうど良いじゃないか。
振り返ろうとするタロを促し、ようやく4人で城門都市サイトを出発する。
俺達は国境の山脈にある唯一の山道にやっと踏み込んだのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます