第7話 旅支度
「いくらなんでも軽装すぎる」
ジローさんと合流し、出発だ!
という所だったが、俺達の格好を見てジローさんが放った一言がそれだった。
昨日も見てるんだが、いざ出発となって改めて気になったんだろう。
俺の実家は山の中だったし、軽装に見えても大体の事は対応できる。
とはいえ、ミアはともかくタロは文字通りの裸一貫だ。
「装備:自前の毛皮」だけで所持品すら無し。
俺も緊急時の保存食を使い切ってるし、補充する予定だった食料も妙なのを2人拾ったゴタゴタで買えていない。
手早く旅支度を――となった。
「……それがなんで食べ歩きなんだ君たちは」
「だってあの宿、食事出さないっていうんだよ⁉」
「いや頼めば出してくれたんだけど、ちょっと高かったんだよ」
「ケチッス! それにあんまり美味しそうじゃなかったッス!」
露店で買ったパンに近くの店でおっちゃんが削っていた羊の肉、それに別の店からチーズも買い、その場で炙って貰って挟んだ物を三人で並んで食べている。
サンドイッチは父さんの得意料理のひとつだが、このくらい見様見真似で作れる……というと父さんが怒りそうだな。
ちなみに父さんの他の得意料理はパニーニやクロックムッシュだ。
ジローさんは宿で食べてきたらしい、余裕のある食事ができるのは羨ましい話だ。
時々俺の分から齧ったのとは逆側を指先でちぎり、肩の辺りで飛んでるミアに手渡しつつ、目的の店を目指す。
「ここだな」
ジローさんに案内された店にはハンマーと金床があしらわれた看板、鍛冶屋だ。
大きめの店で、よく見ると毛皮の加工品らしい看板もかかってる。
大体はここで揃うって事かな。
ジローさんが扉を開けたので朝食の残りをまとめて口に放り込んで、手を払う。
「主人、入るぞ」
「入って良いのか? こんにちは~」
一歩踏み入れると古い建物特有の匂い、さらにそれに勝る金属臭が鼻をつく。
奥に視線をやると話に聞いたドワーフか? って体型のおじさんがジロっと視線をよこして「……おう」と小さく返事をしてきた。
「こんちわー」
「ちわッス!」
ジローさんが開いた扉から、俺の足をすり抜けるように真っ先に店に入っていく姿がふたつ。
ミアとタロが物珍しげに棚や壁に飾られた商品を眺める姿を目で追い、ちょっとばかり困惑してる様子がないでもない。
「すまんが、今日は看板娘が留守で無愛想なやつしかいない」
「そこのコボルトに必要な品を見繕って欲しい、看板娘の方が目利きなら残念がるけど?」
ふんっと鼻を鳴らしたおじさんに必要な物を伝える。
とりあえず、整備されているとはいえ山に入るなら少し大きめの刃物。
それに護身用で鎧――革製だろうな、それと武器もか。
あとは飲水用その他の革袋と他には……。
見た目が犬だから気にしてなかったけど、服も欲しいとこだな。
人間なら突き出た枝や虫相手に傷を負うので、肌を隠すって理由からだが……。
タロの場合は本人の毛皮で不要かもしれない、でもモロダシはさすがになあ。
だけどこの店じゃ買えないか? 靴も組合が違いそうだし。
……靴っているのか? タロに?
「コボルト用の革鎧は少ないが在庫があったはずだ、武器は要るのか?」
「槍がいいッス! 短めのだと使いやすいッス!」
「短槍か、いくつかあるが手に合うか分からん、実際に持ってみろ」
「はいッス」
「槍? 使えるのか?」
「前のごすじんに持たされてたッス! 服と一緒に取り上げられたッスけど」
獣人との戦争で、似た様な種族のコボルトを嫌ってる人が多いと言ってたが、おじさんは特にそういう態度でもなく淡々とタロに品を見繕ってくれる。
ミアの方は放置中だが、鎧のデザインに興味があるらしくて、ふよふよと店の中を飛び回っている。
さて……また出費だけどおいくらになるかな……。
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