第6話 同行者
事故前に会話してた人は良いのか?
そう聞いたが、用件自体は終わってたらしい。
面倒事に巻き込まれるのを嫌ったか、逃げたっぽいのを知ると呆れていたが。
それはそれとして、助けた礼を貰えるというなら欲しい物がある。
「俺もミノーへ行きたいんだよ、道案内してくれないか? 礼をくれるならそれでいい」
「承知した。だがミノーへの道は山越えだ、出発は明日になるが構わないな?」
「あぁ、今日は宿を取るつもりだったよ、出来るだけ安いとこを探そうかと。どこか知らないか?」
「出来るだけ……? まさかロープの……いや、酒を嗜む歳でもないか?」
「若く見られがちだけど、これでも18だ。それより、ロープ?」
「18? 私と同じ歳には見えんな……ロープの宿というのは俗称だ」
宿屋か、それとも店主の名前だろうか。
ジローさんが眉をひそめてる様子からして、良くはなさそうな店っぽいが。
「酒場に併設された小屋にロープを張るだろう? その上に酔いつぶれた客をうつ伏せで一列に乗せるという最下級の宿だ」
「……宿?」
それを宿と呼ぶのか……まさか馬小屋よりも下があるとは。
外の世界は俺の想像が及ばないことだらけだな。
「さ、さすがに……もうちょっとマシなとこにするよ」
「そうした方が良い、ポーションの様な物を持っているなら懐を漁られる事もあるだろう」
さすがに大都市だけあって、宿の数自体はそこそこあるらしい。
最下級と言わないまでも、質を問わないなら部屋を取れないなんて事はないそうだ。
本人は貴族じゃないなんて言ってたが、それでも騎士……見習いと同じ宿を取ろうとは思わない。
適当に宿を決め、明日の朝に落ち合う約束をしてジローさんと別れる。
「今日は月が明るそうだ、気をつけたまえ」
「そっちもね」
月の明るい日は女神が出る。
父さんいわく、神よりは妖怪に近いと言ってたけど、妖怪がよく分からない。
……さて、ここから一仕事だ。
「つ、冷たいッスよごすじん⁉」
「大人しくしろ! 言葉が通じてても一緒じゃないか!」
「お~泡立つね~……おわっぷ⁉ ちょっと水かけないでよ!」
宿の主人に銅貨を渡して井戸を使わせてもらい、汚い毛玉を丸洗いだ。
持ってきた石鹸が丸々一個無くなるかという頃に、ようやく地毛の模様が確認できるくらいになる。
白と茶色の毛に包まれたタロは、さっきまでの嫌がりを忘れたように満足げな間抜け面で、体を震わせ水分を飛ばしている。
今日は余裕のある行程だったはずなのに、もう日も暮れてきてる。
ダンゴを全部食われちゃったので、食事は宿で頼んで休む事に――しようと思ったが、そこはさすが安い宿。
食堂で他の泊り客を見ていると、正直言って大した料理の出来ない俺から見ても、ここではよろしくない食事が出ている。
一人で街に入った時に考えてた露店での買い食いを、3人であっちの串焼きだ、こっちの果物だと騒ぎながら食事を済ませる。
その後は歯を磨いて、色々あった疲れからかベッドにバタン、だ。
「ね~ちょっと寒いんだけど、そっち入っても潰さない?」
「潰すかも」
「ボクはこのくらいでちょうどいいッス」
俺はベッドを使うが、見た目が犬のタロはベッドに毛がつくという理由で宿の主人がベッドを使わせるのを拒否した。
仕方ないので主人に銅貨を渡して部屋の床に厚めの布を一枚敷いてやり、その上にタロが丸くなる。
ミアはベッドの適当な位置で布をかぶってる、わりと真面目に寝返りで潰さないか心配だ。
それにしても急に賑やかになったなあ……。
タロは「今はコボルト大変ッス! 獣人に犬頭もいて人間が負けてるから八つ当たりされるッス!」との事で、身綺麗にしてやってハイさようなら、とはできそうにない。
ミアも「放り出されたらまた捕まっちゃうでしょ⁉」とか言ってたし、しばらくはついてくる気なんだろう。
まあ一人での生活も旅も、もう十分だったしこういうのも悪くはない。
明日は人生初の国境越え、ちょっと興奮しないでもないけどやっぱり疲れもあったのか、すぐにまぶたは重くなった。
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