第3話 妖精買取

「で、何やったんだ?」


 片膝をついて毛玉にダンゴを食わせてやりながら、上のかごを見上げて聞く。

 店の軒先に吊るされた鳥かごの中には、後ろ手に縛られた小さな生き物。

 長い緑色の髪を揺らし、仄(ほの)かに光る透明な羽を背中に生やしたその姿。

 いわゆる妖精ってやつだな、初めて見た。


 「変な魔力出してる人」と言われたが、おそらく俺の能力の事だろう。

 妖精は基本的に魔法が得意、そして俺には父親譲りの特殊な能力がある。

 魔道具の製作、操作といった事に関連する能力で、周囲の魔力を持った物とネットワークを形成して云々――と父さんは言ってたが正直感覚でしか理解していない。

 父さんの説明はよく分からない用語が多いんだよな……。

 ともかくこの能力の関係で、魔法使いは俺が変な音か何かを出してる様に感じられるらしい。

 ま、そんな事より今はこの妖精か。


「お腹減ったからここで食事しただけよ!」

「飯食ったら縛られた? さっき代金が払えないとかなんとか言ってたろ」

「そういうこった。無銭飲食だよ、食うだけ食って払うもんねぇんだと」

 

 店先で騒ぎすぎたのか、食事を出してるらしい店の人が口を挟んできた。

 頭をかきながら妖精を見る表情からすると、扱いに困ってそうだな。


「だって人間のお金って大きすぎるじゃない! あんなの持ち運べないし!」

「払わないで良い理由にはならないだろ、それ」

「着てる服の出来が良いんで、それを代金代わりにどうだって話もしたんだがな」

「やだー! 一生懸命作ったの! これはミアの大事な服ー!」


 店主の言う通り、よく見れば妖精の着てる服は布が多くてヒラヒラとした変わったデザインだ。

 しかも別々の色に染められた布を複数使ってる豪華さ。

 俺なんか軽めの革鎧の下は長袖の服! ズボン! 以上! だぞ。

 革のベルトを付けてるから、自慢したいくらいなのに。

 この大通りを行く大半の通行人の格好も、俺と同程度以下だ。


「確かにその作りなら小さくても売れそうだな」

「嫌だってば! 助けてくれたら役に立つよ! ミアは魔法使えるからその子の傷治せるし!」


 妖精の言葉に店主のおっちゃんを見上げると、苦々しく頷く。 

 おっちゃんがクイッと指差した先には、一見片付けられた店内がある。

 でもよく見ると分厚い木のテーブルが、真っ二つに割れたのを補修した形跡があったり、デカい石像が逆さまのまま壁に立てかけられていた。

 目の前にいる手のひらに乗るサイズの妖精がコレをやったというなら、それこそ魔法でも使わないと無理だろう。


「飯代だけならともかく捕まえるのに店が荒れてな……手を縛ったのもそれでだ」

「だって無理矢理脱がせようとしたんだよ! 普通身を守ろうとするよね⁉」

「まあ確かに、ウチの従業員が先に手荒なマネをしようとしたのは事実だがな」


 よっぽど熟練しないと、手や指の動作抜きで魔法を使うのは難しい。

 俺も正直苦手分野だ、手を縛られた状態で魔法を使えるなら達人と呼んでいいだろう。

 ん~しかし……治療魔法か、今は必要無さそうなんだが。

 目線を下げると、うずくまって丸まり鳴いていた毛玉が顔を上げ、尻尾を振っていた。

 体中にいくつもあった傷を気にした様子もない。

 あれは食べると何故か怪我が治る。

 人間以外にもちゃんと効果があったみたいだな。

 ダンゴを食い終わり、わふわふと尻尾を振ってくる毛玉の目が俺と妖精を行き来する。

 近くで困ってた者同士、通じる物があったのかもしれない。


「仕方ないな、被害ってのはどれくらいですか?」

「コイツを引き取ってくれるなら食事の代金、銅貨15枚で良い。ウチは食堂の許可は取ってるが奴隷の販売許可は無いんでな」


 奴隷として買うと言われたら逆に困るとこだった、と店主が肩をすくめる。

 吊るされてるのは暴れたお仕置きか?

 路銀を稼ぐ手段が今のとこ無いのに出費ばっかりだけど、仕方ない。


「銅貨15枚ね、じゃあ貰ってくよ?」

「かごは置いてってくれよ、そっちの方が高いからな」

「え……ミア、この鳥かごより安いの……? 100倍くらいにしようよ?」

「……キャンセルしたら、こいつどうなります?」

「うっかり鳥籠ごと水に落とす」


 即答だった。

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