第5話~5
その日はいつも通り仕事をしていた。。介護職というのはあちこち体を痛める仕事でもある。まして、私の年齢。。腰や、足、肩。。痛みとの闘いでもある。。
整形外科クリニックのリハビリは一日に保険適応してもらえるのは1つの部位まで。。週に一度通うだけなら一か所のみしか見てもらえない。。仕事は5時半まで、病院は6時まで。。となると3か所痛めている私は病院通いも間に合わない。。ましてこのところ、肩の状態はどんどん悪くなってきている。。なので、思い切って5時半あがりを5時までに変更してもらったばかりで、この日のいつも通りとは、いつも通り肩が抜け落ちると感じるほどの痛みを抱えた状態でもあった。
基本的に私は痛いから風呂介助は出来ない。。とか言いたくない性質で、この日もチョット下を向いただけで痛くなる首や肩をリハビリの先生に教えてもらった通りのストレッチを繰り返しながら仕事をしていた。。
風呂の中介助(体を洗ったり風呂場での介助)担当が、一人体調不良でお休みとなり、外介助(脱衣場で着替えの介助)の一人が中介助に変更。。外介助は私一人だった。
その助っ人としてきたのが看護婦のNさんだった。
週のうち4日は職員の看護婦、後は派遣看護婦ばかりだったのが、月曜だけという非常勤職員の看護婦になってまだ、5回目ぐらいの方で、利用者様の特徴や名前等まだ把握できていない看護婦さん。この日、派遣といえども、この職場に何度もやって来て熟知している看護婦と二人体制の日でもあったことから、Nさんが風呂の外介助となったようだった。。
朝9時ごろから利用者様は順次やってくる。バイタルをとって9時半ごろからお風呂のスタート、丁度11時ごろは終盤に向けてピークの時間でもあるが、前半ピッチを上げて介助しているとちょっとした隙間の時間がある事も曜日に寄ったらある訳で、この日そんなタイミングでの出来事だった。。
私の肩は超痛みのピーク。。私は肩のストレッチをしてしのごうとしていた。。
右腕を上にあげて、ひじから下を頭の後ろへ持って行き、肩甲骨の周りの筋肉をほぐすポーズで後ろにのけぞっていると、Nさんが近づいてきて何やら言ってきたと同時に体に違和感を感じるも、それが何なのか?あまりに唐突で、不意を突かれ過ぎて、自分に何が起こっているか?瞬時に理解できないでいた。時間にしたらほんの数秒?否数十秒だったのか?それとも何分かのスローモーションだったのか?時間が止まったのか?
我に返る一呼吸手前で私は「え?」と何かを言いながら私の胸にふれているらしいNさんの言葉を理解できないまま聞き返した。
耳に飛び込んできた言葉は、
「だ~か~ら~。揉んであげるっていってるんですよ。」
同時に「だ~か~ら~。。」の時に胸を揉み始め、「いってるんですよ。」のところで、私のトップ。。要は乳輪と乳首のところを2本指でぐりぐり弄られた。。
瞬間。。私特有の「嫌な感触」にフラッシュバックした。。
あわてて、胸を庇うようにNさんから離れ、
周りの利用者様の前でもありながら私は我を忘れて声をあらげた。
「同性だったら何してもいいとでも思ってるんですか!」
そこへたまたまもう一人の看護婦さんが来たので、「胸触られた。」と涙目になりながら言うと。。「誰?」と聞かれ、「看護婦」と言うと。。
もう一人の看護婦さんは「え~~???」と驚き、私はすかさず、「すみません。。ちょっとトイレで気持ち切り替えます。職員に伝えてください。」と言って、トイレへ駆け込んだ。
仕事中なのだからと必死に平常心をとりもどそうとするも、頭の中をかけめぐるのは、前に言われた「触られる方にも問題あるよね。」と言っていた上司の言葉。。
そしてガン見されたその時の上司の表情。。
体にますます湧いてくるのは「嫌な感触」。胸も何もかも性器ごと全部パーツを取り替えたい衝動。。父の手垢。必死に体を洗っていた記憶。消せないジレンマ。汚れには汚れを。。浄化の儀式。おまけに自分の子宮までぶっ壊したくて妊娠中絶までの若き日の自傷行為まで繋がり、それら記憶があちこちショートして火花を散らしながら、まるでスーパーコンピューターのような速さで私の脳裏によみがえる源からの涙は治まるどころか、やっと出口を見つけたマグマのように噴火を繰り返した。
電車で痴漢にあった方がまだマシ。。そういう事も若い頃には想定出来ていた。
今はオバサンになった私でも、女性なら満員電車に乗る時にはそれなりの防御の心得なるものが蘇ろう。。しかし、ここは介護現場。。しかも仕事中、利用者様からの行為ならあちらは認知機能が衰えた方、それなりの防御のアンテナはたてている。しかし、まさか、職員が。。しかも介護現場で働こうとする看護婦が。。あり得ない。。今まで性被害まみれの人生の中で今度は女から???
私にそういった思考や趣味や体質は無い。。
いろんな思いが駆け巡る中、私の顔は収拾がつかないぐらい、泣きっ面になってしまい、このままではトイレを出て利用者様の前へ出られない。。という意識に辿り着いて、やっと涙が止まった。。
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