憧れ、その刹那



真似事を、した事があった。夏の日の夕暮れ。氷が泣くカフェラテは甘ったるくて、じんわりと優しかった。


電話の向こうのその人は、私を好いてくれて。話は面白かったし、声も暖かかった。プレゼントももらった。優しい人だった。


好きになれなかった。どうしても、友愛以上の感情が湧いてこなくて。残酷なことをするとは分かっていた。彼に私という切れ端を残す事だけが心残りだった。


泣かせてしまった。彼を。名前だって呼んでくれたのに。それなのに、 泣かせてしまった。


忘れてほしいと、そう伝えたら、彼は声を潤ませながら、無理だと言った。綺麗な月を覚えてしまったら、忘れるなんてできない、と。


月。遠く浮かぶ月。水面の触れられぬ月。そう例えてくれた事が嬉しかった。


ごめんなさい。私が悪いの。貴方を愛せないで、貴方を裏切った私が悪いの。許して欲しいなんて言わない。忘れて。お願い。


忘れようと、してくれたかしら。もう記憶の片隅にも消えかかった彼の事を、時折思い出す。耳に引っかかった優しい声を。


恋の真似事。とんだお遊び。馬鹿げた話とモノクローム。


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