型落の瓦落多



鼓膜の向こう側に響く音が、私を殺したがる。強く高い、痛い、どれだけ時間が経っても、慣れない音。座れば頭が鳴る。立てば身体が揺れる。そのまま倒れ込みそうになって、慌てて手で支えるけれど、それも間に合わなくて、何とか倒れる前にしゃがみこんで。危なかった、ため息を一つ。暫くしてやっと立ち上がれるようになって、それでもまだふらふらしていて。階段を上がるのも、廊下に通じる扉を開けるのすら億劫で、もう嫌だ、あぁ、また頭に針が刺さる。でもまだ、まだ終わっていない。ポケットの携帯にくっつけた金属製のチャームががらがらと私を嘲る。五月蝿い。黙れ。口に出そうになって思わず手で押えた。未だに耳の後ろで不愉快に蚊が飛んでいる。もうやめてよ。虐めるのも飽きたでしょ。そろそろ別の誰かに飛んでってよ。罪も無い赤の他人に押し付けようとしてしまう自分が情けなくて汚くて、吐き気がして、苦しくて。今度は心臓が鳴ってる。痛い。死ぬなら苦しまずに死なせてほしい、きっとそれは聞き入れられない。どれだけ痛くて苦しくて辛くて、泣きたくたって、私に普通の涙腺なんて枯れ消えてしまった。なんでもない所でトラウマを思い出して、吐くほど泣いて、それでも泣き止めなくて、あぁもう、大っ嫌いで大っ嫌いなあの怒鳴り声が過去を反芻して。そのせいで、今、たった今、泣きたいのに今、泣けずにいる。胸が苦しいと、心情として感じられたらどれだけ良かったかな。未だに分からない恋情も愛情も、私を苛んで終わらない。助けてと、誰に言ったらいいかも分からない。教えてもらったことしか出来ない、典型的な駄目人間。分かってる。分かってても治し方が分からないから、もう駄目なんだと思う。生きたくて死にたがりな自分を嫌おうとして何年経っただろう。ずっと嫌えない。せめてそう育ててくれたら楽だったのになぁ、なんて、思ってしまう自分に腹が立つ。あの人は悪くない。悪いのはそう思うに値する育ち方をした私だ。あの人は悪くない。嫌いだ、何もかも。なのに心の底から嫌えない。


ずっと目を閉じていたことに気が付いて、ゆっくりと瞼に切れ目を入れる。回らない血を無理やり回す音がする。無理にでも動かさなければ、私は解けてなくなってしまうのかもしれない。或いは、溶けた方が、楽なのかもしれないけど。


ま、いいか。どうでもいいや。要らない話はごみ箱に棄てておいて、今日も終わらない筆を動かそう。BGMはいつも通り、冷めた珈琲も然り。


定期的に元に戻るそのデータを、未だに削除出来ずにいる。


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