こどもだまし



初めてのマイルドセブンは苦かった。


中学の時、パパから貰ったものだ。パパはいつも誰かと遊びに行っていて、家に帰ることは多くなかった。でも、時々帰ってくると、私ともよく遊んでくれた。


俺らみたいにならないように、大人になってから吸えよ。そう言って笑っていたパパは、去年死んだ。やばい人に襲われたらしい。意外と味気ないなと思った。不思議と、涙や感傷は無かった。


ママは私が産まれる前に死んだらしい。ママのことは何も知らない。ごめんねとは思うけど、知らないものはしかたない。そう割り切ってずっと生きてきた。


ふと空を仰いだら、濃い灰色が何重にも重なって、これから土砂降りが来そうな雲だった。そういえば、今日の予報は雨だったなぁ。朧気に思い出す。


もしかしたら、ママもこんな気持ちだったのかもしれない。お互い様だと思えば、ほんの少し楽になった。顔も声も知らないママと同じ結末。それもまたいいものだと思う。


最初で最後の吸殻はとうに短くなっていた。手の中に詰め込んで火を消した。自分以外に迷惑はかけたくない。火事なんてもってのほかだ。パパはきっと褒めてくれる。


生命の役割を果たさないことを、ご先祖さまにちょっとだけ謝ってから、私はそのまま前に倒れ込んだ。





重い。



重くて、重くて、


痛くて、



暖かい。







ママはあたしが産まれる前に死んだ。


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