亜麻色にファンタジア



ベッドには黒ずんだ染みが残っていた。


一人ぼっちで温もりから抜け出して、カーテンを開けた。ちょうど朝日が昇ってきて、私を無様に照らした。鳥たちは負け犬になど目もくれず生きる為に飛んでいる。向かう風は私を嗤っているだろうか?


初夜は思っていたより心地良かった。快感というものを初めて覚えた、それには感謝はしておこうと、思いはしても。何も言わずに、何も残さずにさっさとどこかへお出かけなんて、薄情な人。私はため息を纏って、またふわりと柔らかさに身を預けた。


漏れるのは擦れた空気と夜の思い出。重くて甘ったるいロイヤルミルクティーと、古臭く錆の付いたショパンを奏でるレコード。傍らの効きもしない催淫薬。無くても気持ち良かったから、別に構わない。他に願うことも無い。

涙なんて出ない。哀しくはないから。強がれば本当に強くなってしまう、生きにくい体で生きている。


ああ、でも、少し。ほんの少しだけ、考える。

目が覚めれば、隣に優しい笑顔を浮かべた貴方が私を見ていて。よく眠れた?なんて。

くだらない妄想。ちゃちで浅い幻想。分かってるけれど。


目を瞑ったって、見えない夢だから。

残った染みを撫でながら、傷の痛みに浸るくらい、許されると思う。


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