枯れど美し
そうなる気はしていた。
彼女の目は何処と無く物憂げで、優しいけれど影があった。彼女はいつも私を一瞬見ては逸らすから、私はそれがずっと気になって、授業なんて手につかなかった。
休み時間に話しかけても、彼女はただ黙って本を読んでいて、此方の呼びかけに目をやりさえしない。何だか腹が立って、放課後に公園に来いと古臭くも手紙を書いて呼び出したのだが。
こう、なる気はしていた。彼女は此処へ、来るなり私を公衆便所に連れ込んだ。どうせ来ないと、高を括っていた自分を私は強く殴りたい。
「呼んだってことは、分かってるってことでしょう?」
蓋をしたままの座面に私を座らせて、彼女は艶やかに笑った。その表情が、狂おしいほど綺麗で。
「容赦しないから。」
一言呟いて、彼女は私に接吻をした。さくらんぼのような柔らかな甘みが脳の中を支配する。吐息と熱は私と彼女とを右往左往しながら静かな空気に溶けていく。優しく私の中に入ってくる彼女の舌は長くて、油断していた唾液腺をつるりと撫でる。溢れる声と露は次第に潤いを増し、奥の奥へと感覚を伝播させた。
「___……力、抜けちゃったね。かわいい」
そう言って舌舐めずりをする彼女は、まるで獲物を食らい尽くさんとする蛇のようで、背筋にぞくりと何かが走る。それが何かが分かろうとも出来ないままに、私はまた彼女に声を奪われた。
私より少し長い指が私の耳を伝う。遊ぶように弱点を捏ねる彼女の手に、はくと開いた口は飲み込む酸素さえかき消してしまった。
やがて意識は蕩けていく。彼女はくるりと私の目元を摩った後、小さく笑ってきゅっと私を抱き締めた。
「どこまでいけるかな。」
楽しそうに、嬉しそうに、彼女は言う。
どこまででも良いよ。連れてってよ。私がそう返せば、彼女は殊更嬉しそうに、喉を震わせた。
「かわいいなぁ」
逃がさないよ?
その言葉を最後に、私の理性は潰えた。
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