第4話預言者出現?
いつもの場所で何時ものように見台を置いて、お客を迎える準備をしていた。すると、占が好きという訳でもないし、悩みがあるようには見えない、少し擦れた様な感じの男がうろうろしていた。そして、見台の前に立って、話しかけてきた。
「どうですか?商売繁盛ですか?」
「さ、どうですかね?大入り満員もあればそうでない時も、あるんじゃないですかね」
「まあ、そうでしょうね。ところで、何でも良いんですけど、何か面白い話はありませんかね?」
「面白い話ですか?」
「実は俺、日日新聞の斎藤って記者なんだけどさ、この頃事件も少ないし、芸能人も周りを気にして、派手な事もやってくれないんですよ。それで、皆さんだったら色々耳に入ってくるんじゃないかなと思いまして、話を聞いているんですよ」
「いやあ、私はまだ日が浅くて、そういう話はとんと聞きませんね」
「何でも良いんで、何かあったら教えて欲しいんですよ」
何か面白い話なんて言われても、直ぐにこれがありますなんて言える訳もない。何かあったかな?と考えている時、(電話がくる、上司の宮本さんから)何馬鹿な事考えてるんだろうと思ったが、思わず口に出していた。
「上司の宮本さんから電話がくる」
「電話?なってないよ!」
「もうすぐ鳴るよ」
「あんたは、占い師、超能力者じゃないんだよ、全く…えっ電話だ」
スマホに電話してきたのは宮本だった。ディスプレイの文字と占い師の顔の両方を見ながら、訝しそうにしながら電話に出ていた。
「はい、斎藤です」
「何か面白そうな話は見つかったのか?」
「今も聞き込んでいる最中です」
「さっさと面白い話を仕込んで来い」
「はい、わかりました。大至急仕込んで帰ります」
(この占い師のおっさん、どうして電話があるって事分かったんだ?偶に磁場みたいなもんが分かる奴がいるって、聞いた事があるが、そういったもんか?でも、上司の宮本さんって言ってたよな、俺が登録しているのは宮本じゃなくて、鬼。ふうん、何か匂うね)
「おじさん、良く電話が来るって分かったね」
「なんとなくね、誰だって、虫の知らせみたいな事ってあるでしょ!そんな気がしたんですよ」
「へええ、大したもんだ。今の電話も、記事になるような話を持って来いって、言われてたんだよ。何でも良いから、何か教えてよ、ねっ」
「教えてっていわれてもね…そんなに自信ないしね」
「地震?いいね!それで行こう。次の地震は何処で起こる?」
「えっ、私が言ったのはその地震ではなく、自信がないって言ったんですよ」
「もう、どっちでも良いんですよ。どうせ、読者も真剣に見ちゃいないんだから。それで、何処にします?地震が起きる場所?」
「えっ?場所ですか?何処でも良いんですか?」
「あんたの名前は出さないから、大丈夫だよ。だから、感の良いところでさ、場所を言ってよ」
「知りませんよ、大騒ぎになっても」
「大丈夫、地震の話なんて何時もやってるから。これから、何十年の間に、いや、何年かもしれないってね。何とかトラフトってやってるでしょ!だから、限定はしないから大丈夫。で、何処にする?」
何を言えば良いのかと考えていると、映像が浮かんで来た。
「はあ、知りませんからね。え~っと、北海道の離島付近。震度5弱。今週末。これで良いですか」
「離島付近で震度5弱ね。おっしゃっ、ありがとうね。これ記事になったら、見料弾むからね、んじゃまたね」
参った、とんでもないことを言ってしまった。これが記事になる事なんて、あるはずもないけど、インチキ占い師なんて言われそうで怖いな。ほんと、参ったな。
それから数日後、仕事に出ようとして、テレビを消そうとした時、
「阿部先生、日日新聞に昨日付で、北海道離島付近で震度5弱なんて記事が出ていましたけど、どうなんですか?」
「そうですね、どういった情報を基に予測をしたかによるでしょうね」
「記事によりますと、地震研究を長年されている方と紹介されていますが」
「沢山の地震が大なり小なり、各地で起きてはいますが、予測が非常に難しいので、何処で起きても不思議ではありませんが、今回はまずないと言って良いでしょう」
「ということでした。今日のニュースを終わります」
(新聞記事どころか、テレビのニュースにもなってるし、ちょっとやりすぎですよ。まあ、地震が起きなくてもこっちの事を記事にされることは無いから、安心はしてるけど。記者ってのはすごいね、何でもかんでも書いちゃうんだから。今度来た時には、もう少し用心しますか…)
それからの数日間は、何時ものように、興味本位の客と、酔っ払いの相手が続いていた。
そして、相も変らぬ日常が、記者との会話を忘れさせていた。
昼食を取りながらテレビを見ていると、
「只今、地震のニュースがはいってきました。今日午前⒒時55分頃、北海道の尻尻島の西五キロ、深さ⒛キロの震源で、震度5弱、マグニチュード6.7の地震が起きました。尚、この地震による津波の心配はないそうです」
このニュースを見た時、ひえ~っ本当に起きちゃったよ、びっくりした、それが正直な感想だった。以前、クイズ番組で(雨の曲3曲をお聞きください)と言った瞬間、曲名が順番に頭に浮かぶ事があったりして、周りから可笑しな顔をされる事もあったりしたが、
それがぶり返してきたのかと思うと、少し嫌な感じがしていた。いつもいつも分かる訳ではなく、急に頭に文字が浮かぶ時があるのだが、毎回ではなかったので偶然、偶々という事で済ましていた。只、今回のニュースに関しては、このままでは済まないのではないかという、一抹の不安を抱えていた。
事務所に行くと、立花さんが居て、
「地震があったんだってねえ。この頃多いよね、嫌になっちゃうね、競馬も全然当たんないし」
早速ニュースの話をして来た。その瞬間頭の中に、又、北海道で地震がある、という言葉が聞こえてきたような気がしたが、何も言わずに黙っていた。
準備をして何時もの公園に行ってみると、明るいライトの光が煌々と照らされ、周りの占い師達も邪魔だなという顔をして、何かを言い合っていた。その輪の中に、日日新聞の斎藤という記者が居て、マイクを向けられ何かを喋っていた。これは不味いぞと感じ、事務所に引き返した。
「ん?どうした?具合でも悪いのか?」
「ええ、少し熱もあるみたいなので、今日は休ませてもらおうと、引き返してきました」
「それは遺憾ね、大事にした方が良いよ。なんせ毎日頑張ってくれてるしね。それとこれを見てよ!」
と、テレビを指差して、
「凄い占い師がいるみたいだね。なんでも地震を当てちゃったらしいんだよね、凄いね」
テレビでは、海の公園で中継が行われていて、斎藤記者が得意げに喋っていた。
「こちら中継です。何時もは、こちらにいらっしゃるはずの占い師さんですが、今日はまだ姿を見せておりません。斎藤さん、その占い師さんはそんなにすごいんですか?」
「ええ、彼は予言者、超能力者と言っていいんじゃないですか。今回の地震以外にも、彼は色々な事を話してくれました」
「どんな予言だったのですか?」
「それはここでは言えません。いずれ、日日新聞でお伝えしたいと思っております。皆さん日日新聞を宜しく」
「今日は残念ながら、現代の預言者は現れませんでした。中継を終わります。スタジオさんにお返しします」
そのテレビを見た瞬間、斎藤という記者にやられたという思いが強くした。そう思ってはみたが、どうしようもない。さて、どうしようか?どうすればいいのだろうか?明日以降の事を考えるだけで、憂鬱になりそうだった。
それからの数日は、体調不良という事で、占い師の仕事は休んでいた。テレビでも、現代の預言者の報道が続いていたが、中継場所に姿を見せることが無かったので、下火になっていた。
これでやっと仕事に行けると思い、事務所に顔を出した。
「おお!体は大丈夫なの?無理しないで良いんだよ」
「もう大丈夫です。申し訳ありませんでした。今日からさせて頂きます」
「そう、じゃあ頑張って。具合が悪かったら無理しないでね。早く帰って来ても構わないからね。レンタル料金はちゃんと頂くけどね」
「はい、わかりました」
海の公園に行ってみると、以前と何も変わらぬ風景があった。見台を置き、何時ものように興味本位の客と酔っ払いを相手に商売をしていた。すると、誰かがニヤニヤしながら近づいて来た。あの日日新聞の斎藤という記者だった。
「久しぶり!体調がすぐれなかったんだって?もう大丈夫なのかい」
「はい、お陰様で回復しました」
「貴方が現れなくて大変だったんだよ。まっ、新聞も売れたし、原稿料もたっぷり頂いたから、それでも良かったんだけどね」
「そう言えば、私、まだ見料貰ってないですよ」
「おお、そうか、御免今日は持ち合わせがないんだよ。次回持ってくるからさ。それで、何か面白い話は無いかい?」
「えっまたですか?面白い話なんて、そう簡単にありませんよ」
「まあ、後からでも良いから、何かあったら教えて」
「はあ、何かありましたら」
「それとさ、この頃競馬が全然当たらないんだよね。今度の有馬何が来る?俺は本命対抗で決まりだと思ってるんだけどさ、どうかな?」
「はあ、有馬ですか?堅い競馬には違い無いと思いますが、本命対抗では無いですね。う~ん、1着馬と2着馬は外人の騎手で、3着馬は有名な日本人騎手。これでどうでしょうか?」
「ふ~ん、なるほどね。今のヒントで当たったも同然だな。よし、これで勝負出来そうだな。ありがとうな」
(頭に浮かんだまま言っちゃったけど、外れたら怒るんだろうな。これが絶対来るなんて言ってないし、しょうがないよな。その時はその時、今考えても始まらない)
そう思い、事務所に向かった。
「只今戻りました」
「はい、ご苦労様」
立花は相変わらず、競馬新聞を食べてしまうんじゃないかと思うぐらい、食い入るように見入っていた。
「ねえ、今度の有馬なんだけどね、本命対抗で良いのかねえ?」
ここでも競馬かと思いながらも、
「堅い競馬ですが、本命対抗では無く、12着馬は外人の騎手、3着馬は有名な日本人騎手が来ると思います」
とそう答えていた。貴方も占い師なんでしょう、ご自身でで占えばいいんじゃないでしょうか?と言いかけたが、競馬新聞を見ながら、うんうん言って、唸っているいる立花に、何も言えなかった。
それから、有馬がある数日前、日日新聞が大々的に売り出しをかけていた。
「預言者、第2弾。有馬確定馬券。若者よ有馬を掴め!これで貴方も億万長者」
この見出しで、日日新聞の売り上げが、普段の3倍に増えたという報道がテレビから流れていた。そのニュースを見た瞬間、斎藤にやられたという思いに打ちのめされていた。
そして、有馬発走の日、予想した馬が次々に掲示板に掲げられていった。当たったか、でも俺には関係無い、そう思い事務所に向かった。事務所の前に着き、ドアを開けようとすると、歓びの歌が大音量で流れていた。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「あああ!お帰りなさい。君のお陰で、有馬完璧に獲れたよ!ありがとね」
「それはおめでとうございます」
「これで、重賞40連敗が終わった。助かったよ」
貴方も占い師という言葉が口から飛び出そうとしていたが、もういいわと言う気にもならず、帰り支度をしていると、
「ねえ、金杯なんだけどどう?」
その質問に、咎めるように見つめていると、
「あは、今度は自分で占う、いや、予想してみるよ。お疲れ」
その後、日日新聞の斎藤記者の攻勢にもめげず、見出しになるような事は、何も言わないようにしたお陰で、世間を騒がせる事も無く穏やかな占い生活を過ごしていた。
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