第2話

 両耳にイヤホンをしかと填め通勤電車に乗り込む。外部の音が遮断出来るのは何て都合がいいんだろう。大勢の人並みに紛れていても一人になれる。余計な音が聞こえないことによる恩恵は大きい。聴き慣れない外国の音楽であれば、外部の音は聞こえず、耳に侵入してくる音も言語は聞き取ることなく身の外へ逃げていく。

 それだけのことで、あれこれと思想を巡らすことが日課と化している身には有り難い状況を作り出してくれる。

 車内に乗り込む際に下から吹き上げた風が冷たくて思わず身震いした。五感の一つである聴覚が奪われるからだろうか、都内だというのに降った雪が積もる気温である今の季節には寒さが身にしみるようだ。

 と思った一瞬後には電車内のむっとした暑さが全身を包み込んだ。

 更に後ろからぎゅうぎゅうと人が詰めてきて、思索を巡らすどころではなくなる。慌てて捕まれる手すりやらつり革やらを探して目に留まった空いた手すりに掴まり体重を預けた。毎度のことだがどうしてこうも東京は人が多いのかと愚痴を言いたくなる。

 程なくして電車が発車し、慣性の法則の慣れてきたところで手すりから手を離し、スマホを片手に今日一日のスケジュールを確認する。

 新卒採用の企業へ嫌というほど応募をして面接を繰り返してきたが、結局今現在の勤め先にしか合格することが出来ず、これといった目標もなく、ただ毎日同じ通勤電車を乗り継ぎ、たどり着いた職場で淡々と業務をこなし、帰路に就く毎日だ。他には何もない。

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坂城優の密室事件 神田檀 @praiseworthybook

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