宇宙人

目覚めると天井が見えた。

「目が覚めたようですね」

ベッドで横たわっている私の横から声がした。

「ここは病院です。どうやら記憶を失ったみたいですね」

どうやらドクターのようだ。

私はドクターの方を見ると、ハッとして飛び起きた。

「宇宙人だ! 私を食べる気か!」

紫色の皮膚、額からだらりとぶら下がる二本の触角――ドクターは異様な容姿をしていた。

白衣や眼鏡こそしているが、どう見ても地球人ではない。

「落ち着いてください。あなたを食べる気はありませんし、そもそも私は宇宙人ではありません」

「宇宙人じゃなければ地底人か! そこのお前も仲間なんだろ!」

私はドクターのそばにいるナースを指差した。

ナースも同じような容姿をしていたからだ。


ナースがドクターに耳打ちすると、ドクターは続けた。

「そうそう、あなたがどうしてここにいるか分かりますか?」

「えーと、確か――地球人が宇宙船で荷物を配達している最中に、他の宇宙船と衝突して――」

「なるほど」

他にも色んなことを聞かれた。

ドクターはカルテに書き込みながら私の話を聞いていた。

「問診は以上です。もう少々お待ちください」


ドクターは退出する頃には、すっかり落ち着きを取り戻していた。

冷静になって辺りを見回すと、多くのことが分かってくる。

この部屋には私以外の患者がいないこと、観葉植物が数本、週刊誌などの本が数冊――最もおかしな点は窓がないことだった。

やはりこの施設は怪しい。

私はこの部屋から抜け出すことにした。


廊下に出ると、関係者しか入れない扉から先ほどの医師の声がした。

「患者には妄想の症状がみられ……引き続き調査の方を……」

もはやこんなところにはいられない。

私は病院を飛び出した。


周りはドクターやナースと同じような宇宙人だらけだった。

私にこのことを知られたくないから閉じ込めたんだな。

患者衣のまま商店街を駆け抜けていると、家電量販店で展示しているモニターが目に入った。

『話題の小説がテレビドラマ化!』というニュースがしていた。

この小説は本で読んだことがある。

確か――地球人が宇宙船で荷物を配達している最中に、他の宇宙船と衝突して――。

私はハッとしてガラスに映った自分の姿を見た。


紫色の皮膚、額からだらりとぶら下がる二本の触角――私は異様な容姿をしていた。

「あぁ、宇宙人なんていなかったんだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る