アンチチート系

「ん……ここは……」


 コンビニの帰り道にトラックに轢かれたところまでは覚えている。


「何だここは! あたり見渡す限りの大自然! 見たことのない生物!」


 もう少しあたりを観察しようと移動するが、体が重い。


「鎧? 剣もある。そうか、これは異世界か。異世界へ転生しちまったんだ!」


 あてもなく歩いていると、目の前にスライムが現れた。


「こいつを退治すればいいんだな」


 右手に持っている剣でスライムを倒すと、どこからともなく声が聞こえた。


『レベルが2に上がりました。気合い斬りを覚えました』


 どうやら、このままゲームのような感覚で敵を倒していけばいいみたいだ。


 モンスターを探して歩いていると、目の前に冒険者らしき団体が歩いていた。

 リーダーから話を聞いてみることにした。


「すみません」

「やあ。その装備は初心者かい?」


「ええ、まあ」

「なるほど。ちなみに目的はあるかい?」


「目的?」

「そうだ。この世界では何をしてもいい。強いモンスターを倒すのもいいし、レアアイテムを集めるのでもいい。他の冒険者と対戦してもいい。何をするのも自由さ!」


「魔王とかはいるの?」

「魔王? あれを魔王というのかは分からないが、最強のモンスターはいるな。俺たちはレアアイテムを集めてるから関係ないけどな」


 一人でもくもくとゲームする方が気楽でいいや。

 とりあえず、このリーダーが言う最強のモンスターを目標にしよう。


 リーダーたちと別れると、モンスターを探した。

 もっと強いモンスターを探すため、洞窟へ入っていった。


「こいつは強そうだぞ」


 火を吐く狼だ。レベルは5くらいか。

 幸い火を吐くタイミングが読めたため、ノーダメージで倒すことができた。

 こう見えてもアクションゲームは得意だ。


「やった。レベルアップだ!」


『レベルが3に上がりました。ヒートブレスを覚えました』


 これは……さっきのモンスターのスキルか?


 次はクモのモンスターだ。


『ミニスパイダーを倒しました。スパイダーウェブを覚えました』


 どうやら倒したモンスターのスキルを覚えられるようだ。


 このままどんどんモンスターを倒していった。

 やがてスタミナが無くなり、街へ行って休むことにした。


 街は洞窟のそばにあった。


「お、お前さんはさっきの」

「あ、さっきのリーダー」


 先ほどのリーダーとばったり再会した。

 アイテムの情報を探しに街へ来たらしい。


「よかったらお前さんもうちのパーティーに入らないか?」

「え? いいんですか?」


「おうよ。お前さんはまだ初心者だろうし、経験値稼ぎにももってこいだろ」


 なんて優しい人なんだろうか。

 地獄に仏とはこのことだな。

 別に地獄でもないけど。


「僕、あれから強くなりましたよ」

「そうか。じゃあステータスを見せてみな」


 ステータスを表示すると、冒険者の表情が曇り始めた。


「お前……その技、どこで手に入れた」

「え? モンスターを倒したら覚えましたけど」


「……悪いことは言わん。この技は忘れろ」

「え!? どうして!」


「お前『チート』を使ってるな」

「チー……ト?」


「お前が覚えている技は本来、お前が覚えることができない技なんだ」

「で……でも……」


「とにかく、ゲームバランスを乱さないためにもその技は忘れるんだ」


 そう言われたものの、忘れることはできなかった。

 これを使えば簡単に最強のモンスターを倒せると思ったからだ。

 でも、忘れないとパーティに入れてもらえない。


 ……そうだ。




「よし、ちゃんと忘れて来たな」


 この世界にはステータスやスキルを感知できないモンスターが存在することがわかった。

 そのモンスターと戦い、ステータスを隠すスキルを手に入れることができた。

 とにかく、敵から奪った技は使わないようにしよう。


 こうしてチートがバレないように冒険を進めていったが、それにも限界が来てしまった。

 僕たちのパーティーは重大なピンチに陥った。

 目の前には大きなドラゴン――チートを使わないと全滅だ。


「た、たすけてくれ」


 チートなんて関係ない! ここで全員を助けてヒーローになるんだ!


「ヒートブレス!」

「……!! その技は!」


 敵から奪ったスキルで見事ドラゴンを撃退した。

 アイテムを盗むスキルも持っていたので、レアアイテムもゲットできた。

 回復スキルで全員の回復を癒し、MP回復のスキルも使った。


「……」


 リーダーは呆気に取られている。

 僕がいなかったらこのパーティは全滅だったのだ。

 感謝してもしきれないのだろう。


「今、運営に通報した」

「え!?」


「君はチートを使ったからな」

「でも、僕がいなかったら全滅していましたよ!」


「いくら俺たちが助かろうと、君がやっていることはチート。悪い行為だ」

「で、でも、全滅したら――」


「全滅したら復活すればいいだろ!」


 全滅してもやり直せるシステムだったようだ。


「しょせん俺たちの実力がそこまでだったってことだ! また腕を磨いて出直せばいいんだよ! 負けたら反省してまた挑戦する、それがゲームの醍醐味ってもんだ! いつでも勝てるゲームは楽しいはずがない!」


 まさか、感謝されるつもりが怒られることになるとは。

 しょうがない、この人たちとは別れて――


「おい、どこへ行くつもりだ!」

「どこでもいいでしょう。今から飛翔のスキルで――」


『その技は使うことはできません』


「――え?」


『不正を感知しました。アカウントを凍結させます』


「俺が通報するのは2度目だからな。てっきり反省したと思ったが」

「に……2度目!?」


「チートはゲーム性を著しく乱す。最初に街であったとき念のため通報しておいたんだ」

「そんな!」


「俺だけじゃない。街でお前のステータスを見ていた人の中にも通報した人はいただろうな」

「僕を信じなかったってことですか!」


「お前はいま俺を裏切っただろ! 運営は様子見もかねて1度目は目をつむってくれたんだろうが、2度目はない! このゲームから出て行け!」

「待って! 僕は現実世界でも悲惨な目に遭ってるんだ! 僕にはもうこの世界しかないんだ! だから――」







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