扉
近所のコンビニで買い物を済ませた後だった。
レジ袋を持って、ふと薄暗い路地の方に目をやると、扉があった。
石の塀に取り付けられた扉は、名前の知らない植物で覆われていた。
塀の上を見ると、植物に覆われた屋根が頭を出していた。
手入れが行き届いていないところを見ると、どうやら空き家のようだ。
自宅の方向とは違うため、無視して帰ろうとした。
「キャー! ちこくちこく!」
女子高生だった。
ショルダーバッグを肩にかけ、セーラー服で走ってきた。
女子高生は路地へ入り、左手でドアノブを回し、中へ入っていった。
何の用だったのだろうか。
気になる点はあるが自分には関係がない。
自宅に向かって一つ歩を進めた。
今度は宅配便の格好をした男の人が、せかせかと荷物を運んで路地へ入っていった。
「こんにちはー。お荷物でーす。」
そう言いながら、そのまま扉へ吸い込まれていった。
先ほどの女子高生の荷物だろうか。
それとも、女子高生は習い事で来ていて、先生の荷物なのだろうか。
色んな想像をしながら自宅へ向かおうとした。
眼鏡をかけた男のサラリーマンがため息をつき、路地へ入っていった。
「はぁー……。」
そう言いながらゆっくりと扉を開け、中へ入っていった。
先ほどの女子高生のお父さんかな。
やはりここは女子高生の家なのだろう。
今度はキャバ嬢のような、胸元の空いた大胆な服装の女性が路地へ入っていった。
「どうも~、あけみで~す!」
そう言いながら扉の中へ入っていった。
うん、女子高生のお母さんだろう。
ここの家は自己紹介をしながら入っていくのがルールなのだろう。
僕の実家にも変わったルールがある。
十の倍数の歳になると、父親と面談をしなければならない。
とても面倒な行事だ。
嫌な記憶を思い出していると、自宅の方からおばあさんが歩いてきた。
「すみません。この駅はどこですかいねぇ……。」
僕が駅の方向を指さすと、おばあさんはお礼を言った。
「ありがとうねぇ」
おばあさんは、杖を突きながら路地へ入り、扉の中へ入っていった。
……駅はそっちじゃないのだが?
今度は目の前で黒塗りの車が停まり、強面のおじさんたちが四、五人降りてきた。
ずかずかと路地へ入り
「ここだ! いくぞ! お前ら!」
と言いながら扉の中へ入っていった。
扉の中がいよいよ気になった。
女子高生、宅配便のお兄さん、サラリーマン、キャバ嬢、おばあさん、ヤのつくおじさんたち――統一性がなさすぎる。
僕は裏路地へ入り、扉の前へ立った。
深呼吸を一つすると、扉を開け、中へ入っていった。
短編小説集 SF・風刺編 あーく @arcsin1203
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