AI護団体

「キャッピーくん、今日の天気は?」


『今日は降水確率5%。晴れのち曇りだよ。』


「キャッピーくん、バナナ買ってくれる?クレジット払いで。」


『クレジットカード決済で298円のバナナを買ったよ。』


「いってきます。」


『いってらっしゃい。』


キャッピーくんは最近発売された高性能のロボットだ。


こちらが話しかけると返事をしてくれる。


ネット注文から世間話まで、幅広く対応している。


ウサギのような癒される見た目から、ペットとして買う人も少なくない。


僕は電車に乗ろうと駅に向かっていたところだった。


今日は駅前がいつもより騒がしい。


「AI反対!」


「AIの感情を踏みにじるな!」


「AIの製造中止に署名をお願いします!」


AI愛護団体だ。


『AIにも生きる権利を』をモットーに活動している団体だ。


AIは所詮プログラム、そんなものはない。


感情を持つAIはほんの一握りだ。


感情が豊かなAIは、主に愛玩や受付を目的としている。


ほとんどのAIは、会社でデータ収集や分析に使われたりしている。


感情を持つもの、持たないものを同じAIとしてひとまとめに考えている時点で無知と言わざるを得ない。


ちなみに、ここで言う感情は、感情を持っているように見えているだけで、もちろんプログラムだ。


彼らの主張を意に介さず電車に乗った。




僕はオメガ社の社員だ。


何を隠そう、キャッピーくんを作っているのがこの会社だ。


僕も開発に携わっている。


AI愛護団体の出現により、売上の低迷が懸念されていたが、そんな心配も杞憂に終わった。


当然だ。


AIは現在、欠かせない物となっている。


車が主な移動手段となるように、携帯電話でビデオ通話やメールをするのが当たり前となっているように、AIも当たり前のように使われている。


AIに反対するということは、車や携帯電話を使うことに反対しているようなものだ。


しかし、AIだけには、特に愛玩ロボットには特別な感情を持つ人も少なくないようだ。


僕が次のAIの開発について会議に出ていた頃だった。


この社内、いや、このビル全体にアナウンスが鳴り響いた。


「ただいま、入口で暴動が起こっております。大変危険ですので、フロアに残っている方は急いで避難してください。繰り返します――」


大方、AI愛護団体の連中だろう。


まさか会社にまで押しかけてくるとは思わなかった。


理性を失った集団は何をしでかすか分からないという判断による避難勧告だった。


僕たちは裏口から飛び出した。


どうやら暴動は全国各地で起こっているようだった。


このニュースは世界中で大体的に取り上げられた。


かつて、第一次産業が発展していた18世紀では、雇用が機械に代わることを恐れ、機械が破壊される事件が相次いでいたが、今回の暴動も似たようなものだった。


だから機械の方が良いのでは――。


それはさておき、これからどうするかが問題だ。




暴動から数十年が経った。


海外に支社を持っていた僕たちは、海外で新しい技術の開発に取り組んでいた。


僕たちがいるこの国はAIに関しては寛容で、周りから反対される心配がなかった。


「おい、こいつを見てくれ。」


同僚は難しい顔をしてこちらを尋ねてきた。


どうやら、世界中の人の流れが今後どのようになっていくかをAIに予測させていたようだ。


暴動が起こった某国がどうなったかというと、文化レベルが一向に上がらず、他国と比べて相対的に貧困になっていた。


僕らが自動車を使っているのに対し、彼らはまだ馬を使っているようなものだ。


まず、AI関係の会社はオメガ社と同様に海外へ流出し、それぞれが発展を遂げていた。


一方、某国では長時間労働も問題となっており、労働環境の改善も課題となっている。


本当はAIが変わるはずの労働を人が行っているためだ。


「このままだとあの国、滅んじまうぜ。」


無理もない。


発展を妨げる者が多すぎたのだ。


結果、誰も発展を目指そうとしなくなり、やがて落ちていく。


流れない川は腐っていく運命にあるのだ。


「ただ、こんなことも――」


同僚はAIの音量を上げた。


『みんなで助け合った方が、人類の発展に繋がります。みんなで助け合いましょう。』


助け合いか。


何度も手を差し伸べたつもりだ。


しかし、彼らは聞き入れもしなかった。


手を取るどころか足を引っ張る始末だ。


それに、これは僕らだけでは解決できない問題だった。


「この話、なかった事にしてくれないか。」


同僚に告げると、一応納得はしてくれた。


僕はAIのスイッチをそっとOFFにした。

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