第15話 駄目ですよ?

 


『鳥籠』の中に炎を生み出し、あるいは氷結させ、幾百もの剣で埋め尽くした。

 その度にアネットは焼かれ、氷漬けにされ、刺し貫かれた。

 さすがに無言とも無傷ともいかず、微かにも悲鳴が漏れ、血しぶきが舞い、それを見るたびにリエラは暗い愉悦の笑みを浮かべた。

 

 ――浮かべ、ようとした。


(何よ、これ……)


 全然、嬉しくない。


 ずっと、リエラはアネットに勝ちたいと思っていた。

 アネットに屈辱を与えたいと思っていた。


 ねじ伏せたいと思っていたし、こうして、あるいは先日のように魔力でねじ伏せ、今も『鳥籠』で思う様に蹂躙してみた。

 

「――――駄目ですよ?」


 アネットは、彼女の手に触れたままだった。

 そして。

 笑ったままだった。


はご主人さまの望みではございません」

「う、ううううううう…………」

 

 手は格子を握ったままに、アネットは膝から崩れた。


(一体、私は何がしたいのよ……)


 そう。

 アネットは、自分が何をしたいのか解らなくなっていた。

 

 いや。

 本当は、解っている。

 いる。


(私は、本当に……)


 この子を。

 

 それは到底認められないことであった。

 だが、認めざるをえなくなりかけている。


 リエラはアネットの言葉を無視できないでいるし、その肢体から目が離せないでいる。

 

 ふと見ると、アネットもまたしゃがんでいた。

 しゃがみこんで、リエラを見ている。

 瞳の中を覗き込んでくる。

 

 言った。


「この体、好きにしていいのですよ、ご主人さま」

「…………」

「性奴隷として、思う様に貪ってもいいのですよ?」

「…………」

「どれだけお仕置きをされてもいいのですよ?」

「…………」


 反応を表に出さないリエラに、アネットはさすがに焦れたのか、ふと『鳥籠』の扉に手を伸ばそうと立ち上がる。


「アネット……?」

 

 さすがに見とがめたリエラであるが。


「ご主人さま、素直になってください」

「何を……」


「この鍵、開いてますわよ」


 あなたの望みのままに――

 


 

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