第14話 すきにしてよいのですよ。

「何を――――ッ」


 カッとした。


 リエラは格子を握る手に魔力を込め、『鳥籠』の内部に干渉する。

 外部からも内部からも、この『鳥籠』に手出しすることはできない。

 それは魔王に対を成す『光の御子』であろうとも同様であるが、『鳥籠』自体を作り出した魔王は例外である。


 幾十条もの青白い雷光が生じ、アネットを撃つ。


 肉を焼いた匂いが部屋中に充満し、「ああ……」と微かなアネットの吐息と、リエラの荒い息の音が続く

 やがて。


「……巫山戯たことを、いうな……」


 喉の奥から、絞り出した言葉に。

 アネットの両手が延びて、格子を掴むリエラの手に重なる。


「いたいです、ごししじんさま」


 少し舌足らずのその声は、それでもなお微笑みの唇からこぼれた。


「あ――――あなたは異常よ! そんな異常者に愛されたからって、それでなんで私がそれを嬉しくなるだなんて……」


 図星だった。


 自分の中の感情の動きに、リエラは気づいている。いや、今、気付かされた。アネットの言葉に気付かされた。自分は、確かに、この女に向けられた、異常で我が儘で、自分自身のことしか考えてない愛に、そんなものに、そんなものなのに、自分は、心の底で、嬉しいと思ってしまっている。


(そんなこと――、気づきたくなかったのに……ッ)


 憎かった。

 アネットが憎かった。

 こんな異常な愛を向ける、異常な妹が。

 そんな異常な愛をさえも何処かで嬉しいと感じてしまう自分を、そうと気づかせた妹が、憎かった。


 そして。


 本当は。


 自分は――



「すきにしてよいのですよ、ご主人さま」


 雷霆に打たれてなお平然としている『光の御子』の体には、傷一つなかった。いや、傷一つ残ってなかった。

 力を封印されているというのに、アネットの体はこれしきのことではすぐに修復ができるようだった。


「好きなように、私を嬲ってよいのです」


 アネットは笑う。


「好きなように、私を詰ってよいのです」


 アネットは笑う。


「好きなように、私を殴ってよいのです」


 アネットは笑う。


「好きなように、私を――」


 アネットは。

 格子の中にはいりコンでいるリエラの唇に、自らのそれを寄せ、舌を出して舐めた。



「私を犯してもいいのですよ?」



 ずっと昔から、そう望んでいたように。





 




 

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