第11話 しってました。

(何処まで本当なのかしら……というか、何処まで本気なのかしら……?)


 リエラは、『鳥籠』の中でふかふかの毛布にくるまって自分に背中を向けているアネットを見詰めている。

 ちなみに、アネットが背中を向けているのは「服を着なさい」と命じたのを拒否って、それを叱りつけたからだ。

 

「わたしはごしじんさまのペットなのにー」


 口調が子どもになっていた。

 とにかく拗ねてしまった。

 そして毛布にくるまって、『鳥籠』の端っこにいってしまった。

 

 その様子を見ていたリエラは。

 

「ペットじゃない。あと性奴隷でもない」


 少し、頭が冷えた。

 彼女は抜きん出た人間ではなかったが、聡明である。

 ここまでのアホなやりとりからでも、有意義な分析ができるだけの知能があった。

 

(まず、この子は基本、嘘をついてない)


 リエラは色々と考えた結論としては、それだ。

 

 嘘は言ってない。

 嘘は言っていないが、何かを言ってないことも、あるかもしれない。

 

 それは姉として、魔王としての確信である。

 とにかく嘘は言ってない。


 しかしそれは――



「――――けど、あなたは、本当に私のペットになりたいのね?」



 ぴくり、とアネットの体が震えた。

 そして、ごろんと転がってこちらに寝たままで向いて。


「性奴隷でもおけ」

「性奴隷は絶対にないから」

「ごしじんさまのけち」

「けちで結構――ねえ、アネット」



「あなたは、本当に、わたしを好きなの?」



「……………」


 何故か、アネットは答えなかった。

 リエラはため息を吐いて。


「悪いけど、私はあなたを信じられない」

「――――」

「私はあなたが羨ましかった」

「――――」

「あなたは、私がどれほど憎しみをこめてあなたを見てたか、知ってる? あなたの誕生日に贈られたものを見比べて、どれほど悔しがったか知ってる? 私があなたが父様に褒められるために、どれだけ奥歯を噛んだか知ってる? 私はあなたが皇子様と向き合うたびに、司祭様と挨拶を交わすたびに、怒りの炎をあげていたのよ。

 ――知ってた?」


 アネットは。

 答えなかったが。

 

 まっすぐに、目をそらすこともなくリエラを見ていた。


 ――寝転んだままで。

 そして。


 リエラはもう一度、ため息。


「私は、私の感情を知っている。私は、あなたにどれだけの憎悪を向けて、羨んで羨んで、どれほどの屈辱を与えたいと考えていたのかを、知っている。あなたは知らないでしょうね。アネット。私の可愛くも憎らしい妹。倒すべき光の御子。私は、あなたの存在を許せない。私は、あなたの言葉を信じられない。それがどれだけ、私の好んでたことだろうと」


 言った。

 言ってしまった。

 こんなことを、言いたくなかった。

 それは自分の醜いところだったから。


 誰にも――妹には、特に言いたくない事実だったから。


 アネットは。



「――しってました」



 鳥籠の端から端に、毛布をかぶったままに這い寄り、リエラの前にきて。

 そんなことを、慈愛を込めて言ったのだ。



「愛する私の姉。愛しい魔王様」



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