第9話 ここのあたり。
(おかしい)
アネットは、自分の眼の前で起きている光景に疑問を感じだしていた。
リエラが麦粥の皿を七つ積み重ねたあたりから、違和感があった。
はむはむぺろぺろと、同じような調子で美味しそうに這いつくばって食べているリエラを、アネットは静かに眺めていたのだが。
「――――ちょっと」
「なんです?」
皿の数が二桁になった時、さすがに声をかける。
リエラは顔をあげて、いつものような顔で彼女を見る。
「お腹、いっぱいにならないの?」
「ご主人さまがくださる餌なら、いくらでも食べられます」
そんなことを聞いているのではない。
そんなことを聞いているのではない、と言おうとしたのだが、つい見てしまった。
リエラのお腹のあたりを。
「ちょと、その、服、服をまくってみせて、お腹を――」
アネットが言い終える前に、リエラはまってましたとばかりに立ち上がり、するすると早業に全ての衣服を体から落としていた。
「全部脱がなくていいから!」
「――――そうでした?」
リエラはまったく顔色を変えることなく、そんな風に言う。
ここで文句をいう前に、アネットはリエラのお腹を――二桁もの皿の麦粥が入ったはずの、無様にぷっくらと膨らんでいるはずのお腹を見る。
「なんで?」
呆けたような、声が出た。
リエラの肢体は、完全や完璧という言葉を越えた、一つの美だった。
美の女神が地上に姿を顕せたのならば、このような姿をしていると、そう思わせるものだった。
均整の取れたその体は、膨らむべきところが膨らみ、くびれるところがくびれ――
不自然なところはない。
不自然なまでに自然だった。
不完全なほどに完全だった。
アネットは額に指を当てて、しばし考え。
「ねえ、食べたものは何処にいったの?」
「たべたもの?」
リエラは問われ。
「ここのあたり」
と下腹部に両手をあてて撫でた。
――何故か、喉が乾いた。
どうして自分がそんな反応をしてしまったのか解らないアネットは、唾を飲み込んでから。
「え?」
「え?」
「いえ、ちょっと待って、食べたものがすぐにそんなところにまでおりていかないし、そのあたりは子宮……じゃなくて!」
「はい」
「食べたものがあれだけいっぱい入って、お腹が膨れたりしないの?」
なんで自分はこんな馬鹿なことを聞いているのだろうか。
アネットはそう思った。
だが、リエラからの返答はさらにおかしなものだった。
「お腹? 膨れません。食べたものが溜まったりすることはないですから」
「…………え。」
「光の御子ですから」
「なんて」
「あ、光の御子ですから、食べたものはみんな光の法力に変換されます」
「いえその」
「うーんと……」
「光の御子、なんでも食べられます」
「――本当?」
「土とか食べたことあります」
「なんでそんなものを……」
「……全部、法力に変換されました」
だから。
「光の御子はお手洗いにいきません」
衝撃発言に、頭をぶん殴られたような衝撃を受けたアネットは、多分、闇の魔王も…という言葉を聞いてなかった。
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