第8話 おいしいです。
(とにかく冷静になるのよ)
改めて、リエラは考える。
彼女は妹に比較すれば凡庸であったが、それは相対評価であって、世間のほかの人間と比較すれば優秀な部類に入る。それは彼女の努力によるものであったが、そのことを誰も褒めることはなかっただけだ。
まず、自分が何を望んでいるのか。
その大前提を思い出せ。
忘れてはいけない。
(思い出しなさい。私は、あの子をどうしたいと思ったのか――)
アネットを見た。
這いつくばって、皿にの麦粥を食べていた。
「…………」
散々しつけてわからせた結果としてこうなったというのなら、それは彼女の中の暗い愉悦を満たせてくれる光景なのであるが。
リエラは、嫌がることなく喜んでこうしていた。
(ペットにする以上の屈辱……ペットにするより嫌がること……)
じっと観察する。
命欲しさにペットを演じている……という素振りはまったくなく、本当に心からペットでいたくてこうしているという風に見える。
しかしこれでは、全然アネットは嬉しくない。
彼女が見たいのは、リエラが惨めに許してくださいと懇願するところであって――いや、惨めになっているのはそうなのだが、これはなんか違う。
違うのだ。
アネットは色々と考えてから。
「ねえリエラ、おいしい?」
と聞いた。
「おいしいです。ご主人さま」
リエラは顔を上げて答える。なんの迷いもない目をしていた。
アネットは満足そうに頷き。
「じゃあおかわり、いる?」
「いただけるのですか?」
「――いっぱい、お食べなさい」
◆ ◆ ◆
(なんのことはない。当初の予定通りでよかったのよ)
アネットの予定とは――
リエラをペットとして籠の中に閉じ込めて、自分の立場を徹底的にわからせるまで調教し、それからその姿を残った国民に見せて絶望させて……
というものであり、とりあえずの隷属させてペットにするという目的は達成できていた。
……本当はその過程を通じて、今までの人生で失われた自尊心を取り戻そうとするのが目的なのだから、いきなりぽんとペットとして従順になられた時は面食らったというか、困惑してしまったが。
よく考えたら。
よくよく考えたら。
(ペットにしてからも、屈辱は与えられる)
例えば――
新しく用意されたお皿の麦粥を、リエラはとてもとても美味しそうに食べている。
二皿目も、すぐに食べ尽くされそうだ。
ほいと水の入ったお椀も用意してあげると、ぺろぺろと猫のように舐めていく。
(そう。この後よ……この後……)
この鳥籠のような檻は、彼女が魔力で作り出した特別なものだ。
この中にある限りは光の力は封じられるし、アネット以外の魔に連なる者でさえ、ろくに力が発揮できない。
事実上、この鳥籠に入れられて、出ることはできない。
そんな状態で飼うことにしているのだから、毛布だとかは用意している。
面倒だが、餌として食事も用意する小さな窓もある。
これらは通常のペットを飼うのにも用意される程度のものだ。
しかしここには、意図して用意していないものがある。
それは――
(ふふふ……この顔をで、おトイレをさせてくださいって私に我慢しながらいうのよ……)
そこらの床にしなさい、と言われた時にどういう顔をするだろうか。
想像してみた。
喜んでしている姿が脳裏に浮かび、アネットはぎょっとして首を振った。
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